第5話 実力テスト

「どうしたの? 元気ないけど」


 時刻は夕方の6時半。


 実力テストが来週に控えているので、翠華の家にお呼ばれされて勉強をしている。


 始まって30分くらいずっと身に入ってない俺を不審に思ったのか翠華は、そう尋ねてきた。


「元気ならあるぜ! ニコッ」


 変に気遣いされたくなくて、セルフで声をつけて笑顔を振りまいて見せた。だが――


「私の前で嘘つかないで。作り笑いなんてすぐ分かっちゃうよ?」


 俺のほっぺたをグニッと伸ばされてしまう。


「ずびません。嘘つきました。悩んでます」


「どうせ、気になる子でもできたんでしょ?」


「ぐへっ」


「わかりやすいなぁ。ほんとに」


 翠華から「もうかったるいから早く話せ」と圧を感じる。


「えぇとですね――」


 居たたまれなくなった俺は、渋々と翠華に野乃さんのことを話した。


「なるほどね。気になる子に想い人がいて、悩んでると……」


「うん。俺かなって期待してたんだけど……ないよな?」


「まず話を聞く限り斗和を好きなことは100パーないね」


「え? なんで?」


「だって、足触ったんでしょ?」


「あれはさ、ハプニングで……」


 変なところまで包み隠さず話してしまっていた。


「でも、変態扱いされてると思う。実際そうだし」


「おいっ」


「うーん」と彼女は手を顎において考える仕草をした。


「そうだ。じゃあ、ちょうど来週に実力テストあるし、勝ったら気になる人教えてって言ってみたら?」


「教えてくれるわけないし……第一勝てないだろ?」


 野乃桃音は学年でもトップ10に入る逸材だ。ん?いや待てよ?俺には1年のアドバンテージがあって……。でもなぁ、それでも……。


 そう悩んでいると、翠華は先程よりも怖い声で言った。


「逃げるんだ??」


(怖ぇ!これは、めちゃくちゃ怒ってる顔だ……)


「逃げるも何も……」


「やってみないとわからないでしょ!男なら勝負してみんさいっ!!」


「は、はい……」


「それで、もし、負けて落ち込んだら私が思う存分甘えさせてあげるから」


(翠華ぁぁぁぁ!もしかして、この時から俺のことを?)


「まぁ、私は、斗和の幼馴染だし、親友みたいなもんだからね」


「ありがとう。俺頑張るわ」


 翠華は、笑顔で俺に背中を押してくれた。


 ※※※※※※※※


 次の日、金曜日に、俺は、昨日と同じぐらいの時間に、学校に着くと、野乃さんが職員室の先生と話し終わってるところに遭遇した。


 野乃さんはこちらに近づいてくるが、無視して通り過ぎようとする。


「あのさ、野乃さん。昨日はごめん」


 俺は思い切って話しかけた。


「……こちらこそごめんなさい。あれは思い返せば私が悪いよね」


 すると、彼女も止まって、俺の返事に答えてくれる。


「じゃあ仲直り記念にさ、ちょっと勝負しない?」


「勝負?」


「うん。来週の実力テスト勝負しようよ。勝ったほうがなにか1つ秘密を教えてもらうってのはどうかな?」


「秘密? 普通に嫌だけど」


「逃げるんだ? 俺が不真面目って思ってるなら、勝てるよね?」


 挑戦的な意味を含めて、彼女に問いかける。


「……後悔しても遅いからね。でも、私はあなたに聞きたい秘密はないから、真面目に学校生活を取り組むってことを約束してほしいかな」


「それくらいなら喜んで」


 すると、彼女は、俺の勝負に乗っかってくれた。


 その時の彼女は、挑戦的で、前まで向けていたうざったい表情ではなく、ニヤッと笑った表情をしていた。


 そこから俺は、学校が終わり、家に帰ってから時間を削りに削って勉強をした。


 生まれてこんなに勉強したのは初めてかもしれない。


「絶対に勝ってやる」


 そして、気がつくと本番の実力テストの日になった。


「お兄ちゃん、朝になったけど?」


「あぁ。眠っ」


 今週末の記憶がない。寝るのも忘れるくらい頑張ってたってことか。


「久々に勉強したから記憶がないわ」


 俺の言葉に、千花は、呆然として恐るべきことを言った。


「いや、金曜日はやけに真剣だったけど、土曜と日曜は家で漫画やアニメ見てたよね? あと昼過まで寝てたし」


「は? じゃあ、このやった感は?」


「夢じゃないの?」


「ちょっと待てよ。頭整理するわ」


 あ、これ夢だわ……。そういや土曜日になって、前回やった問題に飽き飽きしてからずっと現実逃避してたわ。


「まぁ、実力テストは、日々の振り返りっていうしな」


「まぁ、どうでもいいけどさ、翠華ちゃん。もう家の前に来てるよ?」


「ちゃんと謝ろう……」


 正直に話したら、学校行くまでずっとジト目で見られました。


 あと、学校に着いて、別々のクラスに行くときに小声で「負けたらもう相談乗ってあげないからね」と釘を差されたので、せめてテスト本気は頑張ろうと思います……。


 ※※※※※※※※


(いや……これはいけるぞ)


 テスト中俺はニヤニヤが止まらなかった。


 ずるいかもしれないが、実力テストは、中学までの復習という簡単な内容だったので、実質高2の俺には簡単だった。


 そして数日後、実力テストの結果発表日。


「まじかよ……」


 沢山の生徒が、廊下に張り出されてある順位表を見ている。


 そこで、俺は口をずっと開けていた。


 なぜなら、俺は、9位という数字を叩き出していたからだ。一方で、野乃さんはというと……。


「11位……。負けた」


 俺の近くで本気で悔しがっていた。


 なんか申し訳ない気持ちもするが、ラッキーだと思っておこう。


 いや、嘘です。ほんとにごめんなさい……。


 


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