第3話 もしかして第1印象失敗?
「綺麗な先生だったらいいな!」
大夜は、教室につくと、ワクワクしながら、俺に話しかけてきた。よし。すこし、未来を知ってる俺が意地悪をしてやろう。
「俺の勘だと、だいぶ美人な先生が来るぜ。しかも、大夜の好きな巨乳の先生がな!」
俺は自信満々にそう告げた。
「おいおい。まじかよ!! 俺は斗和のこと信じるぜ! 早く先生こねぇかなぁ」
俺たちはそんなつまらない雑談をしながら、黒板に貼られてある座席表を見る。
俺は真ん中の1番後ろの席で、大夜は俺の左横の列の一番前の席だった。名字が近いからな。
席に着いて、しばらくすると「ガラガラ」と扉の音がなった。
前の席で大夜が緊張しているのが目に見えてわかる。
(ごめんな。大夜。お前の望み通りにはいかないらしい)
入ってきたのは、巨乳美人でも、なんなら女性でもない50過ぎの男の教師だった。
(だまされてやんの)
俺が前の大夜に、そう念を送ると、感じ取ったのか後ろを振り向き、中指を立ててみせた。落胆した様子が顔だけでもわかった。
(でもな、大夜。この人は、生徒に無理に近づこうとせず、話しやすい先生だ。良かったな)
俺は、両手で「ごめん。ごめん」と念を送ると、「後で覚えとけよ」と言わんばかりの顔を向けてすぐさま前を向いた。
そこから俺は、一度聞いている先生の自己紹介を片耳に、視線を斗和ではなく別の女子生徒に変えた。
先生の自己紹介や、入学式の詳細などを真剣に聞いている美少女。
野乃桃音――綺麗に整えられている黒髪ロングに、女優に顔負けないくらい容姿を持つ女の子。
性格はお淑やかで、勉強する姿、歩く姿といったどの仕草をとっても、美しさを感じられる。
(しかも話していると落ち着くんだよな……)
タイムリープする前の世界では、ただの友達という関係だった。
遊びに誘おうとしたこともあったが、他の生徒も彼女を狙っていると聞き、びびってしまった。
だから、俺はクラス以外ではほんの少ししか話したことがない。
でも、この世界では、彼女と恋人にならないと俺は死ぬそうだ。なら、勇気を出して行動するしかないだろう。
(俺が、君の彼氏になってみせる! あ……やばい)
そんな俺の熱い目線に気づいたのか、野乃さんと目が合ってしまった。すぐさま目線を外す。
その時ちらっと見えた彼女のうんざりとした表情は、1回目の高校一年のときには、見たことがなかった。
(やばい。嫌われたかも……)
それから、そのことに頭がいっぱいで、担任の話が耳に入らない。
(まぁ、1度経験してるから別に大丈夫だろ)
そう自分で安心させながら、頭を抱えていると、いつの間にか話は終わり、担任は、入学式に行くように、促していた。
※※※※※※※※
「お前騙したな……ってどうしたんだよ。変な顔だぞ」
体育館へ向かう途中、後ろから大夜が話しかけてきた。
そうか。名前順だから、俺の後ろにいたのか。悩んでいて気づかなかった。どうやら顔も変だったらしい。
「この顔は元からだわ。あと騙される方が悪い」
大夜のあの時の表情を思い出して、少し気分が和らいだ。ありがとう。親友。いつもの表情に戻すと、大夜は特にそのことに突っ込まずに話を続けた。
「次嘘ついたら、斗和の妹に、お前の部屋にあるエロ本の場所を教える」
「知らねぇだろ。どこにあるか」
「騙されたな。これでお前の部屋にあることは確定した。今度探させてもらうぜ」
「勝手にしろ」
悪いが、神様に言われてから怖くなって、今日、支度の準備をしてるときに、大きい宝箱に入れて鍵をかけて保存したんだ。もちろん誰にも取られないために、鍵は俺の財布にある。残念だったな。親友。
そうこうしている間に体育館に着き、クラス毎に整列をして入学式が始まった。
そこからは、校長先生の話を聞いてる振りをして、時折後ろにいる大夜と小声で雑談をする。
途中、前回の高1で、努力して覚えた校歌を流れているうちに、さっきまでの悩みはほぼ忘れていた。
「気をつけて帰るように」
教室に着いて簡単なホームルームを済ました後、担任はそう告げる。
俺は鞄に教科書を詰め込んで、大夜の方に向かおうとした。その時だった。
「ちょっといいかな?」
野乃さんが、俺の方に来て話しかけてきたのである。
「え……野乃さん。どうしたの?」
俺は動揺を隠せないでいた。手がブルブルしている。さっきまでしたことが徐々に思い出してくる。
「名前覚えるの早いね。いやね。さっき私の方見てたでしょ? あれはどういうことなのかなって」
最悪の展開だ。話しかけられるとは思っていなかった。やばいなんて言おう。
「……窓の景色見てたんだよ。それでたまたま目が合っちゃって」
短時間で、よくこんな言い訳ができたものだ。まぁ、彼女の席は運動場側の席だったし、あながち間違ってはないだろう。
すると、彼女の表情が少し変わった。
「今日が最初の学校なのに余裕だね。でも先生の話聞くことは大事だから、次からはちゃんと聞くようにね」
「わ、わかった」
そう言って彼女は、颯爽と教室から出ていった。
(いや、これ、最初から俺ミスったんじゃないのか……?)
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