第1章 野乃桃音ルート

第2話 2度目の高校1年生

「さて、本当に戻ったのか?」


 朝、目が覚めた俺は、すぐさま携帯を見た。


 すると、そこには1年前の時刻である2022年4月8日と表示されていた。


「神様……」


 俺は神様に向けて感謝を伝えるために、ベットの上で土下座をして、大きな声で「ありがとうございますっ!!」と告げた。


「お兄ちゃん、朝からうるさい。ベッドに頭こすりつけて何してるの」


 すると、ノックもせずに誰かが俺の部屋に入ってきた。


 声だけで誰かわかった。こいつは俺の妹――氷野千花ひょうのちはな。俺とは2つ年下だから、この世界だと中2である。俺みたいな平凡な顔とは違い、目鼻立ちがはっきりしていて顔が整っている。


 まぁ、1年しか戻ってないからか、特に顔に変化は見られない。身長も変わってないな。


 そういえば、話しかけられていたんだった。適当に返事をしておこう。


「神様にお礼をだな」


「アホなの?」


「なんなら一緒にやってみるか? 俺の気持ちがわかるかもしれん」


「はぁ、もういい……そんなことより、家の前で翠華ちゃんが待ってるよ」


 呆れて溜息をつきながら千花はそう告げた。


「翠華が……?」


 そうだった。高校の入学式、俺は彼女と一緒に登校したんだった。


「すぐ行くから待っててって伝えてくれ」


「そんなこと自分で言えば……わかったよ。伝えてくる」


 俺が財布から500円玉を出して見せびらかすと、奪い取ったあと反応を変えた。


 なんとまぁ扱いやすいものだ。


 その後、妹が部屋を出ていってから俺は足早に支度をした。


 見慣れた制服が、すべて新品なことに満足感を覚える。


 洗面台で見る俺の顔は、ニキビ1つだって無い。


(よし。行こうか。2回目の入学式に)


 階段を降りて、母さんが作ってくれた目玉焼きを食パンに乗せて、口に放り込んだ。


「立ちながら、食べるな」と母さんの声がどこからか聞こえる。それに、頭の中で「ごめん」と念じて家を出たら、彼女がいた。


「斗和! 遅いよ」


「……」


 時間の感覚では、ついさっき俺に告白をしてくれた女の子。橘翠華――眼鏡をかけていて、黒髪のショートボブがよく似合っている。身長は女子としては平均的だが、服の下からでもわかる実りあるEカップ(想定)のバストには目を惹かれてしまう。また、制服の着こなしから几帳面であることが伺える。


「どうしたの?まだ目が覚めてない?」 


 何も喋らない俺を心配したのか上目遣いで翠華は問いかけてきた。


(目の前に豊満な胸元っ!)


「あ、あぁ。今、目が覚めたわ」


 俺の動揺した返事に、特に気にすることもなく「ならいいんだけどね」と言って、俺たちはこれから向かう高校に足を向けた。


「これからも仲良くしてね」


 数分ほど歩いてから、翠華が俺の目を見て話しかけてきた。


 相変わらず横顔が凛々しい。そして、あのとき告白してくれたってことは俺のことが好きだったってことだ。


 でもごめん。今回、俺は決めたんだ。2回目の高校1年生は、翠華とは違う女の子に恋をするんだって。


 誰が1番好きなのか確かめるために……。


「あぁ。よろしくな」


 俺は、親指を立ててそう返事をすると、翠華は「うん!」と笑顔で頷いた。


 そこから、15分程歩きながら適当な雑談をしているうちに学校についた。


 ※※※※※※※※


「うわぁ!きれいだね」


「そうか?」


 そびえ立つ学校に、翠華は胸を躍らせていた。


 私立風流高校。偏差値はそこそこ上で、最近設立された高校である。


(新鮮味が無いなぁ)


 当たり前だ。ここで1年過ごしていたわけだからな。見慣れた感がある。


「いつもだったら、斗和はしゃぐのに頭でも打った?」


「残念ながら正常だ」


「あれ? 斗和じゃない」


 俺たちが話をしていると、後ろから声がかけられた。振り向くと、目つきが悪い女の子がいた。


「……佳織」


 俺の気になる女の子である幼馴染の小野花佳織おのはなかおりだった。茶色の長い髪のツインテール。


 顔は時々見せる笑顔がとても可愛いのだが、あまり、笑わないので残念だ。まぁ、俺はこっちのツンとした顔も好きだが。胸はCカップ(確定)くらいだろうか。


 背はスラッとしているからかモデルのように感じられる。


「なに。私と会うのが不服だっての?」


「そんなわけないだろ。会えて嬉しいよ。やっぱりツインテール似合ってるな」


「……当たり前じゃない」


 一見ツンツンしたように見えるが、俺の返事に満足したのか一瞬頬を緩めて、小さい声で「ありがと」と言ったのを俺は見逃さなかった。


 だが、俺がニヤニヤしているとすぐツンとした表情に戻した。


(え〜もうちょっと見たかったんだけどなぁ)


「俺もいるぜ。斗和! 高校でもよろしくな」


 佳織の影から人が現れた。


「大夜! よろしくな」


 佳織の横にいる生徒――こいつは藤島大夜ふじしまだいや。俺とは小学校の頃からの付き合いで親友である。顔は、かなりイケメンで、明るい性格なので、人に好かれやすい。また身長は俺より少し高い。


 あの一年後の世界でも、俺とこいつの友情は揺るがなかった。


「「いぇい!」」


 俺と、大夜は、挨拶ついでに、いつものように拳を突き合わした。


「男子はバカねぇ」と女子2人が言っているが、こういうのがいいのだ。


 すると、玄関口で「クラスの張り出しはってるよ〜」と、俺らと同じ新入生が騒いでいるのを見て、近づいていく。


(俺はもちろんその結果を知っている。同じクラスになるのは……)


「大夜以外は別々だな」


「まじかよぉ。翠華と佳織とは別のクラスかぁ……」


 ガクッとうなだれる大夜。


「つらいねぇ」


 微笑を浮かべる翠華。


「しかたないわね」


 表情を変えない佳織。


 まぁ、8クラスもあるのだから、仕方ない。


 大夜と一緒になれただけでも奇跡だ。


 ちなみに、俺と大夜は、1年4組、翠華は3組、佳織は7組だ。


 少し落ち着いたあと、俺たち4人は手を振って、他の生徒に続いて、各々のクラスに向かっていった。


 だが、俺は知っている。同じクラスに、気になる女の子……野乃桃音ののももねがいることに。


 そう。彼女がこの過去で攻略する一人目のヒロインである。

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