第12話 小さな軍人
「これで、納得してくれたかな?」
徐に振り向いたミカエル様がそう、にっこりしながら問いかけた。
美果子は、なんと答えていいのか分からず、ぎこちなく頷いて見せた。それが、納得したと言う意味だった。
「中の様子を、見に行こう。私の勘が正しければ、清華達は、あそこにいるはずだ」
自信に満ちた顔で含み笑いを浮かべたミカエル様の後をついて行くと……四階建ての廃墟ビルの三階、中央に位置する、天井が崩れかけた大部屋の真ん中で、神崎清華が倒れていた。
「清華お姉ちゃん!」
神崎清華の姿を見つけ、美果子が駆け寄る。がっ……美果子はすぐ、違和感を覚えた。
身体を横に向けた状態で、床の上に横たわる神崎清華を護るように、銀白色の軍服を着た少年が、全身傷だらけで、コンクリートの床に剣を突き刺した状態で佇んでいる。
年の頃、美果子と同じくらいだろうか。紺色の長髪をポニーテールにし、
「お前が……このビルの悪魔を浄化したのか?」
面前に佇む美果子の目を、じっと見詰めながら、少年が静かに尋ねる。美果子は真顔で否定した。
「うんん……悪魔を浄化したのは私じゃなくて、ミカエル様だよ」
「そうか……また……借ができちまったな……」
凜々しい笑みを浮かべて返事をした少年が、ポンッと軽い音を立てて黒猫の姿に。
美果子が駆け付けて、ミカエル様の存在を知って安心でもしたのだろうか。
コンクリートの床に突き刺さっていた剣が消え、勇ましく立ち続けていた小さな軍人が力尽きて倒れてしまった。
「なんで……黒猫の姿に?」
「全ての力を、使い果たしたようだな」
訝る美果子のすぐ傍まで歩み寄り、徐に屈んだミカエル様が、力尽きた黒猫をそっと抱き抱え、哀れむように言った。
「彼はずっと、清華の傍について戦っていたのだ。上級の魔物と対戦したまではいいが……それよりも数段上の、魔王幹部の
美果子には、神崎清華しか見えていなかったが、なんらかの方法で姿を隠していたあの少年も一緒に、悪魔と戦っていた。
そして、この廃墟ビルに蔓延る無数の悪魔を、ミカエル様が浄化してからも少年は、ずっと神崎清華を護っていたのだ。自身の警戒が解け、安堵するその時まで。その集中力たるや……美果子は少年に感服したのだった。
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