第11話 ミカエル様の本領発揮

「疑問が解決したところで、清華を助け出してやらねばならない。美果子、もう少しだけ、私に付き合っておくれ」

 私でお役に立てられるのならと美果子は、気が引き締まる思いで、先を行くミカエルの後をついて行った。

「ここでひとつ、君に頼みたい事がある」

 四階建ての、廃墟ビルの前で立ち止ったミカエルは、そこで初めて振り向くと、美果子にお願い事をした。

「ほんの少しでいい。君の手で、このビルに直接触れて欲しい」

 美果子は思わず、拍子抜けしてしまった。

 直接、廃墟ビルに触れと?いきなり、なに言いだすのこの人……

 腑に落ちない表情を浮かべた美果子は再度、確認する。

「壁に触るだけで、いいんですね?」

「それだけでいい」

 軽く頷いたミカエルはそう、やんわりと返答した。

 なんだかよく分からないけど……ここまで来たら、やるしかないわね。

 凜然と前方を見据えた美果子は、意を決したように草むらを闊歩かっぽした。

 悠然と佇むミカエルの横を通り抜け、すぐ目と鼻の先で立ち止った美果子は、そっと廃墟ビルの壁に触れた、次の瞬間。

 壁に触れる右手から、まぶしい金色の光が放たれたかと思うと、毒々しい赤紫色の光が、あっという間にビル全体を覆ったではないか。

「これは、悪魔が放つ邪気じゃき。君の手から放たれた、強力な神力に触れ、ビルに蔓延はびこる悪魔が反応を示したのだ」

 慌てて右手を引っ込めた美果子に、ミカエルは平然と告げる。

「君の役目は終わった。あとは、私に任せなさい」

 きびきびとした口調で告げたミカエルが、廃墟ビルから美果子を下がらせた。

 背丈を超える、黄金の杖をつき、毅然と佇むミカエルの後ろまで下がった美果子は、そこから成り行きを見守った。

「我が力を以て、魔物と化した悪をはらい清めたまえ」

 呪文のように唱えたミカエルは、振り翳した杖の先端をビルに向けた。

 杖の先端にある、丸い形をした深紅の石から閃光が迸った。

 地に足をつけて踏ん張らねば飛ばされてしまうほどの強風が吹き荒れ、廃墟ビル全体を覆う邪気が、強力な光を放つ深紅の石の中にみるみる吸い込まれて行く。

 やがて、吹き荒れていた強風が止んだ。悪魔が放つ邪気の影響で黒い曇天どんてんとなっていた空も、暖かな光が射す、紅色の夕焼け空へと戻っていた。

 再び平穏を取り戻した丘の上で、美果子は悠然と佇むミカエルの後ろ姿を、愕然としながら見据えていた。

 この人が言っていたことは、全部本当のことだった。

 もう疑う余地はない。この人は正真正銘、神に仕える者だ。

 この時から美果子は、ミカエルを敬重し、名前の後に『様』を付けるようになったのだった。

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