第7話 神に仕える者

 なんとか無事にバス停に辿り着き、予定時刻に乗車した市バスに揺られること二十分。

 目的地となる桜見町さくらみちょう駅前で下車した美果子と希美子は、映画館にて大人気アニメ映画『もろはの刃』を堪能。

 映画を見終わった後は、映画館が入る複合施設内にある、お手頃価格の軽食屋でのランチ。その席にて希美子から誕生日プレゼントをもらった。

 とてもかわいい手のひらサイズのテディベアだった。この大きさならマグカップかティーカップの中に入れるともっとかわいいかもしれない。

「ありがとう!」

 美果子はそう、満面の笑顔で嬉しそうに礼を告げたのだった。


 聖堂前で希美子と別れた美果子は、プラチナ製の柵の門の前に佇んだ。少しだけ……寄り道しても、いいよね。

 そう思い立ち、門に手を伸ばした美果子は、そっと押して敷地内へと足を踏み入れる。

 ギィ……と、微かに軋んで開いた門を通り、石造りの聖堂に足を踏み入れて見ると、なんとも言えぬ安らぎで心が満たされた。

 今朝と同じ、なだらかな空気が漂っている。聖堂の入り口より上、天窓からす温かな夕日の光が、等身大のジャンヌとクリスティーヌの像に当たっていた。

 聖堂の奥、台座の上にひっそりと佇み、陽光を浴びてきらめくその姿はまるで、神々しい光を放つ女神のようだった。

 ジャンヌとクリスティーヌの像を交互に見上げた美果子は思わず、心の声をらす。

「私も、なれるかな……ジャンヌやクリスティーヌのような、強い戦士に」

「なれるよ」

 良く通る、澄んだ男の人の声だった。突如として聞こえてきたその優しい声に、はっとした美果子は振り向いた。

 背中くらいまである銀髪を、深紅のリボンで後ろに結わいた男の人が一人、最前席の長椅子に腰かけていた。

 金色の房飾り付の留具がついた、銀白のマント。

 深紅のスカーフが、マントと同じ色のロングコートの胸元に巻かれ、菱形ひしがたをした赤い宝石が真ん中にはめ込まれている、金の十字架のブローチで留められている。どう見ても、不自然な出で立ちだ。

「あなたは……誰?」

 警戒するような目付きで、美果子は尋ねた。目を閉じたまま、彼は応じた。

「私の名は、ミカエル。神につかえる者だ」

 神に仕える者。その言葉を、平然と口にした彼を見据える美果子は驚愕したのだった。

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