第6話 飽きないんだよね
金色の房飾り付の留具がついた、銀白のマント。
深紅のスカーフが、マントと同じ色のロングコートの胸元に巻かれ、菱形をした赤い宝石が真ん中にはめ込まれている、金の十字架のブローチで留められている。
「あなたはっ……!」
思わぬ人との再会に、驚愕した美果子は言葉を失った。
「久しぶりだね」
声のトーンを変えず、その人は美果子にそう告げたのだった。
あのお方に遭遇したのは、ちょうどこの日の、この場所だった。今から、五年前のことである。
「やっぱり、ここにいた」
「あっ、希美子おはよう」
「なにがおはようよ!あんた今、何時だと思ってるの?」
「何時って……」
憤然とした希美子の言葉で、笑顔で挨拶をした美果子は目を落とすと青ざめた。左腕に巻いた腕時計の針が、午前八時二十分を指している。
「うっそ!もう、こんな時間?!」
「待ち合わせ時間、二十分遅刻。早くしないと、バスに乗り遅れるわよ」
徐に腕組みした
「私に構わず、先に行ってくれてよかったのに」
「なぁに言ってるのよ」
申し訳なさそうな顔をして告げた美果子に、むすっとしたまま、希美子が言葉を付け加えた。
「主役を差し置いて、先に行けるわけないでしょう」
十一歳の希美子が美果子を
「ごめんね……ありがとう」
美果子は曖昧に笑って詫びると、礼を述べたのだった。
希美子とは、三歳の頃から数えて、九年の付き合いになる。幼稚園が一緒なら、小学校も一緒で、今年の四月からは六年生に進級。
冬休み中のこの日、誕生日を迎えた美果子は希美子と映画館へ行くため、聖堂の前で待ち合わせをしていた。
そして、約束の十分前に着いた美果子は、時間になるまで聖堂の中で時間を潰していたのである。
結局それは、約束の時間を過ぎても、聖堂の前で美果子を待ち続けた希美子を、心配させることになってしまったわけだが。
「
「ごめんごめん。まさか、こんなに時間が経ってるなんて思わなかったから」
聖堂から出て、近くのバス停まで走りながら小言を言った希美子に、並走する美果子は、あはは……とばつが悪そうに笑って平謝りした。
「あの勇ましい、ジャンヌとクリスティーヌの像をずっと見ていても、飽きないんだよね」
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