第3話 悪魔式王国再興計画

「まずは、どうしてあなたの国が滅亡してしまったのかを教えてもらえる?」



相手が王子でもわたしは悪魔だ。敬語はつかわない。



「私の国はイグザット王国といって、敵のトグ王国とは昔は兄弟の国だったんだ」



ふむふむ。聞き取ったことをメモに書き込んでいく。



イグザット王国とトグ王国は、砂漠に囲まれた広大なオアシスに存在する二つの王国で、もともとは一つの王国であった。


それが300年ほど前に二人の王子が国を半分ずつに分けて統治することになった。


当初は仲もよく交流も盛んであったが100年もすると当時のことを知る人もいなくなり、ただの隣国になってしまった。



「別に仲が悪かったわけではなくて、親戚付き合いではなくなっただけなんだよ」



「戦争する理由なんてなかったの?」



「水資源が争いの元だ」



イグザット王国とトグ王国は砂漠に囲まれているものの、伏流水があり人々の生活を支えている。


「水の量には限りがあるから、限りなく使えたわけではないけど、昔から水の配分方法は決まっていて、それを守っていれば問題なかったんだ」


水の配分を巡って農民たちが争いを始めたのが発端だ。


お互い自分たちが正しいと思っているから一歩も引かなかった。


やがて自警団が介入し、その手に負えなくなって軍隊が介入したのだ。


悪魔学校の教科書に載っていそうな争いの始まり方だ。



砂漠に囲まれていて攻めてくる国などなかったため、大した軍事力はなかったはずだが、あっという間にイグザット王国は攻め滅ぼされてしまったというわけだ。



「私の父と母も戦争で死んだよ」



王子が寂しそうに語った。


この人を助けてあげたいという感情が湧き上がってきた。


どの程度まで反乱計画が進んでいるか聞いてみよう。



「王子はどうやってイグザット王国を復活させるつもりですか?」


「どうって、戦って相手をやっつけて。戦いの神のご加護は我にある」


まさかのノープラン!


「一人で戦ってどうにかなるわけではないのはわかってますか?」


「まあ、なんとなく」


「まずは反乱軍を組織するのです。どんな人が反乱軍に参加してくれそうかわかりますか?」


「元家臣や元兵士かな」


「それもあるでしょうが、ほかにもたくさんいます」



私は机の上のメモに書きだした。


・旧イグザット王国関係者


・敵であるトグ王国の迫害されている種族


・敵であるトグ王国で、王位継承権の無い王族


これは昨年の定期テストに出た内容だ。




「今思いつくだけでもこれだけあります。反乱と意識させるかさせないかは別にして、利用できる人々です」



「利用っていうのは言葉が悪いな。協力だな」



「いえ、利用です。私は悪魔なので。相手の国のゆがみに付け込んで、利用できるものはすべて利用して目的を達成するのが悪魔のやりかたです」



ここで私は不敵な笑みを浮かべた。


ちなみに不敵な笑みの浮かべ方も悪魔学校で教えてくれる。


悪魔らしくふるまえたことに満足していると、ターレント王子が私の手を握って言った。



「さすが悪魔のリリアだ。こんなわずかな時間で声をかけるべき相手を考えることができるなんて」



「まずは、腹心の部下となるべき人物を選ばないといけないのですけど……」



ちょっとまってよ。


ターレント王子はずっと私の手を握ってるんだよ!


顔が真っ赤になってしまって体がカチコチになってしまった。


息ができないかも。イケメンは反則!



使い魔のピピもポケットから出てあたふたしているが、役には立たない。



「よっ、よし。では行動に移りましょう」



何とか手を振りほどいて水晶を取り出した。


そこにはかつての家臣、ゴワンドの姿が映し出されている。旧イグザット王国の騎士団の小隊長を務めた男だ。


顎にひげを生やした30代、渋い。



「彼は家族を戦災で失っており、復讐を誓っています。まず味方にするべきです」



実は、彼については下調べをしてあった。


ゴワンドの潜伏場所を教えてあげたところ、ターレント王子は次の日の夕方、会いに行くとのことだ。



こっそり水晶で追跡した。のぞき見ともいう。


ちなみに水晶は映像だけで音声は無いよ。



戦災のため、街は破壊され、仕事を失ったものが多数いる。


仕事を失った者は復興工事の現場で働いていた。


ゴワンドもその一人だ。



一日の仕事が終わり一日分の賃金を受け取ると、彼はのろのろと歩きながら帰宅の途についた。


表情はない。


悲しいとかつらいとかではなく、その顔には表情がなかった。


まわりに人がいなくなった時点で王子が声をかけた。



「ゴワンド、久しぶりだな」



ゴワンドは振り返って王子を見た。


あ、と声を上げるのを何とか抑えたようだ。


周りを警戒しながら、人通りがなさそうな空き地に王子を連れ込んだ。



「我々が不甲斐ないばかりにつらい思いをさせて済まない」


王子はそう言いながら、手を包み込むように握った。



水晶の前のわたしはつぶやいた


「あの人、相手が誰でもああやって手を握るのね」



ゴワンドがその場で跪ひざまずこうとする。


王子はそれをなんとか止めた。



「私の国はもう滅んだのだ」



「イグザット軍の働きは充分とはいえないものでした。面目ないと思っております」



「私はまだ負けたとは思っていない。これから反乱軍を組織して立ち上がろうと思っている。誰に声をかけようかと迷ったが、まずゴワンドに声をかけることにした」



しばらく無言が続いた。


お互いが相手の顔をじっと見ている。



「では、残された命はイグザット王国再興のために捧げましょう」



ゴワンドが跪き、忠誠を誓った。


今度は王子は止めなかった。



「よし、まずは腹ごしらえからだな」



場末の、とはいっても味には定評のある食堂に王子とゴワンドは入った。


王子なんだから気を付けないと捕らえられてしまうのでは? 


水晶の前でわたしは心配したが、大丈夫なようだ。


こんな場所に王子がいるだなんて誰も思わないし、服装が違っていると案外わからないものだ。


二人は乾杯して飲み始めた。王子はまだ少年といっていい外見だけど、お酒を飲めるんだね。


小声でぼそぼそと語り合っているようだ。そりゃ、反乱の話は大声では話せないよね。


わたしは水晶を見ながらうとうとと眠ってしまった。水晶では音が聞こえないので、眠くなりやすいのだ。

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【短編】落ちこぼれ悪魔の私は求愛されても困ります――王子とわたしの王国再興物語 渡辺 とも @tomo24

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