第18話 つらいけれど、わたしは生きていく。【赤波江】

「ベイビーって、すごく強い子だよね! あたしの自慢の親友だよ~」

「あの二人は簡単に人生をドロップアウトしたのにね……。私もベイビー、かっこいいと思うわ」

「よく保健室に逃げていたウチは、ずっと教室で頑張ったベイビーをマジで尊敬するよ!」


 ある日の休み時間、わたしは親友三人に褒められた。コムちゃんもチャチャも大桃ちゃんも、わたしと同じクラス。中学校での生活は色々なことがあるけれど、わたしは大好きな三人と楽しく頑張っている。


「わたしが強く生きていられたのは、みんなが優しくしてくれたからだよ。それに大桃ちゃんだって、こうして負けずに生きているんだから、わたしより自分のことを褒めてあげて!」


 わたしが三人に言葉を返すと、コムちゃんとチャチャは「おお~……」と拍手をし、大桃ちゃんは顔を赤らめて「ありがとう」。


「それにしてもさぁ、あいつら呆気なく消えたよな!」

「ちょっと怖いわよね。でも、教訓にはなったかしら」

「うんうん。誰かに意地悪したら、それは必ず返ってくるんだね!」


 もう、この世にいない三人に関する話が始まった。


「許さないのが楽しいって、本当なのかな?」


 ずっと気になっていたことを、わたしはポロッと口から出した。すると親友たちは揃って目を丸くして、わたしを見始めた。


「わたしは、そうは思えない。というか……許せないことって、つらいんだよね。わたし最近になって気付いたの。今、自分は許す側の人間になっているのかもって……。ミドカと黄瀬ちゃんとアオさんを許す権利を、わたしは持っているんじゃないかな?」


 わたしの問いに、三人は静かに頷いた。いつの間にか、わたしは許される側でもあるけれど、許す側にもなっていた。


「もういないから直接あの子たちを許すことができないのも、許したいはずなのに嫌なことを思い出しちゃって許せないのも……つらい。許されないのと同じくらい、つらいことだよ……」


 許せないのは、つらい。わたしにとって、それは二つの意味を持っている。

 そのとき、わたしの目からは涙が流れた。


「わたし、やっぱり許されたかったなぁ……。あの子たちのためにも、自分のためにも……みんなのためにも」


 諦めていたけれど、諦められなかった。ひどいことをされたけど、また仲良くしたかった。意地悪だったけれど、たくさん悪く言われていて気の毒だった。わたしの中は、様々な中途半端な気持ちが溢れている。


「わたし……ミドカよりワガママなのかもしれない! 黄瀬ちゃんのことを言えないフレネミーなのかもしれない! アオさんに負けないくらい悪者なのかもしれない!」


 こんなに泣いたのは久し振りだ。許されたい。許したい。許せない。色々な思いで心がグチャグチャで、もう止められなかった。


「ベイビー、あたしは優しいベイビーが大好きだよ!」

「私も大好きよベイビー。あなたはステキな子だから」

「泣かないでよ~。ウチの大好きなベイビーには、いつも元気でいてくれなきゃ!」


 大好きな親友三人は、わたしに笑顔を向けて、優しい言葉をくれた。


「……ありがとう、みんな……」


 まだまだ涙は流れているけれど、心は落ち着いてきている。


「わたし、これからも頑張って生きるよ」


 とにかく、わたしは生きなくてはならない。本当は長く生きたくても生きられなかった、あの三人のためにも。許されたい、許したい、許せないの三つの気持ちは、わたしの中で生き続けるだろう。この先わたしは、それらに苦しめられることがあるかもしれない。つらい思いは消えず、ずっと残る。

 それでも、わたしは自分なりの答えが出るのを待ち続ける。わたしは生きなければならない。この世に自分を大切にしてくれる、大好きな人たちもいる。わたしは人生を簡単に終えることはしない。様々なもののために、わたしは生き続ける。

 多くの人々や出来事に感謝しながら、優しい気持ちを忘れずに、これからもわたしは生きていきたい。わたしは、一生懸命に生きていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

許さないって楽しいの? 卯野ましろ @unm46

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ