第17話 その後、あの三人は【赤波江】

 色々あったけれど、わたしは無事に小学校を卒業することができた。卒業式で涙を流す子は結構いたが、わたしは全く泣いていない。仲の良い友達は、全員わたしと同じ進学先ということもあって、そこまで淋しいという感情は湧かなかったのだ。解放感もあったからだと思う。そして担任の先生が復活して卒業式に参加できたことは、すごく嬉しかった。


「青森は結局、卒業式今日まで姿を見せなかったか……」

「良くなっていないんだよねぇ?」

「あいつ、ずっと治んなかったりしてな」

「間違いなく……これは天罰だよ」


 やっぱりアオさんは、卒業式に参加できなかった。ミドカと黄瀬ちゃんは最後まで、アオさんがいないことを淋しいと感じていなかったようだ。


「あの子たち、すっかり大人しくなったな」

「相変わらずムカつくけどさ」

「赤波江さんも嫌がらせされていないみたいね」

「このまま変なこと、しないでいて欲しいよ」


 あの日から卒業式まで、ミドカと黄瀬ちゃんは二人きりで行動していた。クラスメートとは必要最低限の会話をしなかったし、その際には必ずブスーッとした態度を、みんなに見せていた。それにより、ますます嫌われてしまった二人。でも、大きな問題を起こすことはなかった。

 わたしはケンカしてからミドカとアオさんと、一言も話さずに小学校を卒業してしまった。黄瀬ちゃんとは、あの日からずっと話していない。でも悔いはない。それに仲直りしたければ、まだチャンスはある。あの三人は、わたしと同じ中学校へ進学するからだ。しかし、まだ三人との仲直りについて考えている、わたしって……。


「ベイビー! 春休み、遊ぼうね!」

「うん! 大桃ちゃんも誘おう♪︎」

「もちろんよ。楽しみだわぁ」


 色々と悩むことはあったけれど、それでも春休みは楽しかった。とても楽しかったので、あっという間に春休みは終わってしまった。

 そして中学校へ入学した数日後、驚きの情報が耳に入ってきた。


「青森の奴、亡くなったんだって~」


 アオさんは中学生になれず、この世を去った。またアオさんの両親は離婚し、アオさんの新しい父親だった人は警察に捕まったらしい。アオさんのお母さんは行方不明。もうわたしたちが住んでいる町にいないことしか分からない。


「人に意地悪しているから、そうなったんだよ」

「自業自得ね」

「人を呪わば穴二つだわマジで」

「あの二人、全く悲しんでいないみたいだな」


 わたしの周りには、アオさんのことを悲しんでいる者は全然いなかった。それどころかホッとしていたり喜んでいたり茶化していたりと、アオさんがいなくなってから幸せになったような人間しか見ていない。そんな中で、わたしは人知れず黙祷した。ふと「それくらいは、やっておこう」と思ったからだ。

 そういえば小学校を卒業する前、入院したアオさんへの寄せ書きや千羽鶴などを用意することはなかった。それは傷付けられた先生が、完全にアオさんを嫌っていたからだろう。やはり先生も神様ではなく人間。教え子だから愛せるわけでも、許せるわけでもないのだ。いや、神様はアオさんを愛せたのだろうか。今アオさんが生きていないということは、そういうことなのかもしれない。かわいそうだけれど。

 しかし、もし先生がアオさんを励ます何かしらを提案したとしても、一人もやりたいと思わない気がする。わたしも正直なところ、やりたくはない。そんなことをしても、アオさんの心には全く響かないことしか想像できないからだ。どれだけ凝った贈り物でも、愛情ゼロな白々しいものなんて、ありがた迷惑にすらならない。

 アオさんが帰らぬ人となったことは衝撃的だったが、まだまだ止まらない。


「黄瀬さんが、自宅で首吊りを……!」

「緑川さん、屋上から飛び降りたって!」


 アオさんの次は黄瀬ちゃん、黄瀬ちゃんの次はミドカ……というように、一年も経たずに三人は続けて消えてしまったのだ。


「黄瀬さんと緑川さんって、もう仲良くないんだよ……」


 これは中学生になってから間もなく、わたしと同じ小学校に通っていた子が言っていた。たまたま聞いてしまった瞬間、予想通りだったなぁ……と、わたしは思った。どうやらミドカが「もう飽きたから、一緒にいないで」と黄瀬ちゃんに言ったらしい。せっかく同じクラスになったというのに、二人は友達ではなくなってしまったのだ。

 その後、ミドカは多くの新しい友達に囲まれたけれど、黄瀬ちゃんは友達作りが上手くいかなかった模様。黄瀬ちゃんと仲良くなった子を、まるでミドカは奪い取るように自分のグループに入れたらしい。そしてクラスどころか校内で孤立した黄瀬ちゃんは、自ら命を絶ってしまった……。


「緑川さん……あの性格だから、もう色んな人から嫌われまくってるって!」


 しかしミドカが築き上げたものが崩れるのも、そう遅くはなかった。中学でもワガママが直っていなかったミドカは、すぐにクラスメートから嫌われてしまった。また部活などで先輩にも睨まれて、あっという間にミドカは敵だらけになったとのこと。最終的に、みんなから冷たくされることに耐えられなくなったミドカは、ある日の放課後に学校の屋上から身を投げてしまった……。


「あいつら立て続けに消えちまうとはな!」

「因果応報だよ……」

「ちょっと怖いわよねぇ」

「偶然なのか、呪いみたいなものなのか……」


 わたしと同じ小学校に通っていた子たちは、あの三人がいなくなったことを、ただの偶然ではなく「不思議な出来事」と考えている。あれだけ他人を困らせていた者たちが次から次へと消えていくのは、ただ事ではない。そんな風に、みんなは感じていたのだ。ちなみに黄瀬ちゃんとミドカが亡くなったときは、緊急で全校集会が行われた。そのとき、みんなで黙祷した。


「あの三人に、いじめられたってマジ?」

「どんなことをされたの?」

「それでも負けずに生きて、すごいよなぁ!」

「よく不登校とかにならなかったよね!」

「かっこいい頑張り屋さん!」

「最強のメンタルだわぁ……」

「この先、絶対に良いことあるよ~」

「強いね、憧れちゃう」


 それから、わたしはちょっとした有名人になってしまった。「陰険な3人娘に負けなかった強メンタル勇者女子」などと言われるようになったのだ。確かに、わたしは二人とケンカをした後、小学校を休んだことはなかった。つらくても登校はしていた。それは、できるだけ早く仲直りしたいという気持ちがあったからだと思う。


「本当の友達が、わたしに優しくしてくれたから登校できていたの」


 何よりも、コムちゃんとチャチャの存在を忘れてはならない。わたしは自分が「勇者」として褒められた際には、二人のことを絶対に話した。また他のクラスメートや、大桃ちゃんについても必ず説明した。わたしに優しくしてくれた、みんなへの感謝の気持ちは忘れられない。それと同じく、わたしはミドカと黄瀬ちゃんとアオさんのことも、ずっと忘れないだろう。

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