第12話 その運命は大切にしてほしい
「10年前のあの事故の件の事はよく覚えている。.....私が.....判断をミスしたせいで.....生徒達は事故に巻き込まれてしまったんだ。.....右折をして野良犬を避けようとしてね」
「.....」
「.....それで人々に突っ込んで巻き添えになってしまったんですね」
「.....そうだね。.....私は.....それ以降.....バスの様な大型の乗り物のハンドルが握れなくなってね」
その中で.....大塚さんは涙を何度も浮かべて拭く。
俺はその姿を見ながら.....複雑な感情を抱く。
どう救えたのだろうか、と思いながら。
大塚さんは悪くないと思うのだ。
思いながら大塚さんを見る。
「.....私は君の将来を奪った責任がある。.....本当にすまなかった。.....でもその中で.....君達を見て一番にビックリしたんだ」
「.....何がですか?」
「君達が仲良くなっている事が、だ。.....聞き耳を立ててすまないけど.....部下と上司なんだね?君達は」
「.....はい」
「.....何という運命だろう。.....私は.....そんなになっている君達を見て.....良かったと思った」
大塚さんは遂に号泣し始めた。
それから、良かった、と言いながら涙を拭う。
俺達は寄り添いながら.....大塚さんを見る。
大塚さんは、最も君達に会いたかった、と言ってくる。
「.....あの日の事故は.....君と栗林さんが特に事故の被害者だ。.....だから.....栗林さん。.....君は何も悪く無いからね」
「.....え」
「.....君が責任を負う必要は無い。君はあの日の事故で.....彼の足を負傷したと思っているかもしれない。.....だけど元の原因は私だ。.....もう悩まないでほしい。この老いぼれに全てを押し付けて。.....君達は幸せになるべきだ」
「.....大塚さん.....」
「君達はもう解放されてほしい。あの日から」
「.....」
だけど私は強くはそうは願えない。
何故なら私が原因なのだからね。
どんな罰でも受けるつもりで警察にも捕まった。
だけどこれだけは言える。
栗林さんは何も悪くないから、と。
そう大塚さんは笑みを浮かべた。
「.....栗林さん。あの日の事故は.....私が全ての原因だ。.....だから.....」
「大塚さん」
「.....?」
「.....確かにあの日は私.....大塚さんを強く恨みました。.....でも」
そう言いながら俺の手を握ってくる明菜。
それから.....俺を見てから笑みを浮かべて大塚さんを見る。
大塚さんは?を浮かべながら俺と明菜を見た。
そして明菜は口を開く。
「私。嬉しかった部分もあるんです。.....事故に巻き込まれて。.....それを言っちゃうと.....元輝さんに怒られますけど.....でも。私はあの日の事故が有ったから彼に出会ったんです。.....こんな素晴らしい彼に、です」
「.....!」
「.....私は.....あの日の事故が良かったとは思えません。.....でも大塚さんは全て責めるべきでは無いと思います。.....こうして.....ラッキーな事もありましたから」
「.....君は.....本当に.....良い子だね.....栗林さん」
涙を流して嗚咽を漏らす大塚さん。
俺はその姿に2人でそのまま背中を摩った。
それから涙を浮かべる。
こんなに.....良い人が居るんだなって.....改めて実感した。
事故は良くない。
だけど.....だ。
きっと大塚さんはもう報われても良いんじゃ無いかってそう思えた。
☆
「.....有難う。私に付き合ってくれて」
「.....俺達が付き合うって決めたんですから。.....大丈夫ですよ」
「.....元輝君。.....栗林さん。.....君達に幸あれだ。.....本当に有難う。こんな老耄の話に付き合ってくれて」
「.....はい」
そして大塚さんは去って行った。
俺達に手を振りながら、だ。
その様子を見送ってから.....俺は明菜を見る。
明菜はずっと俺の手を握ってくれていた。
暖かな陽だまりの様な手で、だ。
「.....元輝さん」
「.....何だ」
「.....私は幸せ者ですね」
「.....そうだな。俺も.....そう思う」
「.....こうして.....貴方に巡り会えたのも.....運命だと思えますし」
俺は、だな、とだけ答えて。
それから大塚さんの背が消えるのを待ってから。
そのまま、じゃあどうする?次、と聞いた。
すると明菜は、まだまだ絵画を観たいです、と答える。
俺は、そうか。じゃあデートするか、と言った。
こんなに柔和な気持ちになるのは.....久々だな。
思いながら.....俺は胸に手を添える。
そして笑みを浮かべてから歩き出した。
それから絵画を観るのを再開して.....お昼になる。
☆
食器の音。
そして人々の会話が聞こえる中。
俺達はそのまま美術館内の食堂に来た。
レストランと言った方が良いか。
考えていると明菜がメニュー表から顔を上げた。
「.....元輝さん。何が食べたいですか?」
「.....そうだな。何がある?」
「和食系ですね」
「.....じゃあ天じゅうでも食うか」
「.....ですか。.....じゃあ私は煮麺かな」
「.....そうか」
そして店員を呼ぶ。
それから注文をしてから。
俺は明菜を見る。
明菜は、今日来て良かったです、と思い出す様に笑みを浮かべる。
そして.....外を見つめた。
「.....胸の石が.....砕けた様な.....そんな感覚です」
「.....俺もな。.....砕けた様な感覚だ」
「.....大塚さん.....あんなに自分を責めていたんですね」
「.....そうだな.....」
「.....何だか.....涙が浮かんできます」
「.....優しいな。お前」
それはそうでしょう。
だって.....可哀想ですから.....、と。
涙を流してハンカチで拭う。
俺はその姿に、だな、とだけ答えてから。
外を見る。
「.....でも.....何か勘違いされてましたね。私達」
「.....付き合っている感じでか?」
「.....ですです」
「.....そうだなぁ.....」
「.....いっその事、付き合いませんか?本当に」
「.....馬鹿野郎。付き合う気は無い」
ぶー、と頬を膨らませる明菜。
赤くなりながらハリセンボンみたいに、だ。
それから.....俺に、ケチ、と言ってくる。
だから.....お互いが好きにならないと意味無いだろ.....。
思いつつ俺は盛大に溜息を吐いた。
でも.....可愛いっちゃ可愛いくて良い奴。
コイツは本当に。
全くな.....。
揺らいでしまうってその涙は、だ。
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