あの日の記憶と再会と
第11話 10年のひたすらな思いと10年越しの再会
巫山戯た野郎だ.....、と思いながらも。
その顔はとても嬉しそうで.....花が咲く様な笑顔が印象的だった。
俺は少しだけ心臓がドキドキしながら.....列車に乗ってからそのまま美術館に手を繋いでやって来る。
そして美術館の入場チケットを買う為に俺はお金を出した。
「え!?元輝さん何しているんですか!?」
「.....え?.....いや。チケット買ってる」
「出しますよ!私が誘ったんですから!」
「いや.....んな事言っても」
「良いですから!」
そしてグイグイしながら入場料をそのまま明菜が払ってしまった。
俺はその事に、あのな。男が払わなくてどうするんだ、とツッコミを入れる。
すると明菜は俺を見た。
それから、じゃあ元輝さん。次は.....払って下さい、と柔和に言ってくる。
畜生め.....何でこんなに可愛いのだ。
何時もの明菜じゃない!
俺は胸に手を添えながら落ち着け、と連呼する。
それから気を逸らそうとこんな事を言ってしまった。
「お前の服装。.....可愛いな。俺好みだ」
「.....ふえ?」
「.....」
「.....あ。え.....あーえっと.....え.....」
慌てる明菜。
その顔は真っ赤に染まっている。
あまりの羞恥の為か顔を覆っている。
そして俺を見てこない。
何だよコイツ!
恥ずかしいのだけど俺も!
勘弁してくれよ!
俺は思いながら慌てる。
「.....その。元輝さんも格好良いです。その服.....プラスです」
「.....お前な.....勘弁してくれ。何でそんな反応なんだ.....」
「当たり前でしょう!?恥ずかしいですよ!.....でも彼氏としてはマイナス0です!」
「おお0が一個減った!」
「はい。.....減りますよだって。.....そんな言葉。好きな人から言われたら誰だって嬉しいですから」
そんな夫婦漫才の様な会話をしながら。
そのまま入場する。
今は海外の有名な画家の作品が並んでいる様だった。
俺は真剣にその1枚1枚を見ていく。
そして明菜を見る。
「.....これは会社の.....あそこに.....こっちに.....」
マジに真剣な顔をしていた。
彼氏放っぽり出して、だ。
俺は苦笑しながらだったがでも、良い顔だな、と思いつつ。
そのまま絵を見ていく。
その際に.....炎がメインテーマで描かれている絵を見つけた。
俺は.....その炎を見ながら.....顎に手を添える。
そうだな.....あの時も.....燃え盛っていたもんな、と。
すると横から明菜が複雑な顔で言ってきた。
「懐かしいですね。.....私は実はまだガスの炎とか見ると.....怖いんです。.....また起こっちゃうんじゃないかって思って。.....事故が」
「.....そうか。.....やっぱり思い出すのか?」
「.....ですね。PTSDみたいな感じです」
「.....そうなのか。.....あれ自体もデカかったしな」
「.....元輝さん」
呼ばれたので、何だ、と返事をすると。
俺を涙目だったが見てきていた。
ビックリしている俺の手を握る明菜。
私を救ってくれて有難う御座いました、と。
俺は、別に何も感謝される事は無いさ。当たり前の事をしただけだから、と応える。
だがその顔はどんどん深刻になっていった。
「.....でも.....私.....ずっと悩んでいました。10年間ずっと」
「.....何をだ?10年も悩むっつったら相当だろ」
「.....貴方はプロリーガーでもなれたかもしれない。そんな夢を私が奪ってしまった。その事に、です」
涙を流し始めてしまった。
俺はその姿に慌ててハンカチを渡す。
それから、泣くなよ、と言う。
一目もあるしな.....。
だがハンカチを渡しても涙が止まらない様だった。
「.....私が.....夢を.....奪ったんだなって.....」
「.....明菜」
「.....私が.....悪いんですよ。.....私が.....」
「明菜!!!!!」
俺はつい。
美術館にも関わらず明菜を大声で呼び。
そして明菜をその場で抱きしめてしまった。
何やってんの俺、と思いながらも、だ。
人がビックリする中。
俺はずっと明菜を宥める。
この美術館から追い出されるかも知れなかったが.....そうせずに居られなかった。
明菜はビクッとしながらも。
されるがままで居た。
その時だ。
「もし」
「.....はい?」
いきなり背後から声が。
その方角を見ると.....60代ぐらいのおじさんが立っていて俺を見ていた。
眼鏡と優しそうな瞳をしている.....。
それから、ああ。やっぱりそうだ、と眼鏡を上げるおじさん。
そして真剣な顔をする。
「.....君はもしや元輝君ですか?」
「は、はい。そうですけど.....何故.....名前を?」
「.....私はバス運転手だった.....大塚と申します。.....あのバスの事故の時の」
「.....あ.....」
大塚と名乗るその男性は。
俺を見ながら、やはり君だったんですね、と懐かしそうな顔をする。
今の大声で向くと.....懐かしい感じでしたから、と涙目になる。
男性はあの日のバスの運転手だった。
「.....懐かしいですね」
「.....そうですね。.....声を掛けてくれるなんて思っていませんでした」
「.....いち早く君には謝りたかったからです。10年間ずっとです」
「.....え?」
あの判断ミスで事故を起こしたのは私です。
そして.....君の将来を奪ったのは私でした。
それで言いたい事があります。
と明菜を見る大塚さん。
「.....君はあの時の女の子ですよね?」
「.....え?.....あ。はい.....そうです」
「.....この起こってしまった今では何とも言えませんが.....貴方は何も悪く無いです。.....取り敢えず今は場所を移してから話しましょう。.....先導して申し訳無いですが」
それから申し訳無さそうな感じで大塚さんは何処かに俺達を導いてくれた。
渡り廊下辺りの自販機に、だ。
そして杖をつきながら大塚さんは俺を見てくる。
明菜も一緒に、だ。
重たい口を.....開く様にしながら大塚さんは小銭入れを取り出す。
「.....何か飲まれますか」
「.....あ。お構いなくです」
「私も.....です」
「.....ではせっかくなのでお茶を.....」
それから大塚さんはお茶を3本購入してからゆっくりと俺達に渡してくる。
そして.....真剣な顔でそのまま買ったお茶を握りしめる。
その手も身体も全部が震えていた。
あの日の事は.....大変申し訳無かったです、と言いながら。
「.....栗林さんも。.....そして元輝君も。.....長い10年でしたよね。私のせいで.....」
「.....大塚さん.....」
「......大塚さん」
「.....あの日を境に.....私は直ぐにバス運転手を辞めました。私が絶対に働く場所では無いと思いましたから」
それから大塚さんは涙を浮かべて流し始め。
そのまま.....全てを語り始めた。
その全てを、だ。
あの日の事を。
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