第8話 栗林という元輝に関係のある人物
凪帆と栗林を引き剥がしてから。
俺達は車に乗った。
しかし栗林はかなりご機嫌斜めの様だ。
俺が尋ねても何も答えない。
返事を返さない。
盛大に溜息を吐きながら栗林を時折、見ていると。
栗林が交差点で止まっている時にようやっと口を開いた。
「.....彼女ですか?あの娘は」
「.....は?」
「.....あの娘は彼女さんですか。.....女子高生の様に見えますが」
「.....ああ.....えっと.....10年前の事かな。.....俺のお隣さんの少女だった少女だ」
「.....そうなんですね.....」
10年前って言うと.....、と栗林は少しだけ眉を顰める。
そして俺をチラッと見てきた。
俺は?を浮かべながらミラーを確認したりする。
何だってんだ?、と思っていると。
「.....私だって......10年前.....」
と呟いた気がしたが。
聞き返そうにもそんな雰囲気では無い感じで外を栗林は見始めた。
俺は???を浮かべながら腕時計をチラ見して。
そして.....駐車場に車を停める。
着いたな、と思う。
確かこの市民ドームだったな。
「.....大きいですね。.....先輩」
「.....だな。.....確かに大きいよ。.....それに懐かしい。この市民ドームで良くサッカーの試合をしていたもんでね。10年前に」
「.....」
「.....どうした?栗林」
「.....先輩。.....せ.....いや。何でも無いです」
は?、と聞き返すが。
栗林は黙ってスタスタと歩いて行ってしまった。
俺は首を何度目か傾げながら。
そのまま栗林の背後を歩いて.....市民ドームに向かう。
この街のシンボル的な存在に、だ。
☆
この市民ドームで今度、街の祭りの行事の様なものが執り行われる。
その主催の件で.....の仕事だったが。
自販機の横で休んでいる時だった。
栗林はボーッとしていて。
仕事にならない場面が多かった。
何処を見ているかと言うと。
簡単に言えばスタジアムの方。
何やってんだコイツは。
仕事しろよ。
「栗林。幾ら何でも仕事にならないから」
「.....は!?.....あ、はい.....」
「.....何処を見ているんだよ。お前は。.....全くボーッとしているのは止めてくれ。頼むから真面目に仕事してくれ」
「.....先輩」
俺は睨みな感じで、何だよ、と言うと。
栗林は口をモニュモニュとガムでも噛んでいるかの様な反応を見せた。
俺は目をパトクリしながらその姿を見ていると。
胃を決した様に顔を上げた。
それから俺を見つめてくる.....。
何だ?
「.....先輩は.....私のせいで.....サッカーが出来なくなったんですよね」
「.....は?意味が分からないんだが.....俺がサッカーが出来なくなったのは事故でな.....って何故そんな言い方を.....」
「嘘は吐かないで下さい。.....私.....知っています。.....あの日.....バスの事故で燃え盛っている車の近くに居た私を.....救出してから足を負傷した.....あの少年を」
「.....は.....」
固まった。
言葉が出るとか。
そんなのじゃ無かった。
そもそも、.....何、の方が強く。
ココアの入っている缶をそのまま足下に落としてしまった。
それから大きく見開く。
何故それを知っている.....というかそもそもそれを知る奴は.....あの時だが。
あそこに居た女の子ぐらいだ。
ま.....まさか。
俺は愕然としながら.....栗林を見る。
栗林は笑顔で.....そして切なそうな感じで俺を見てきた。
「.....私。あの時バスの事故に巻き込まれた.....栗林って言います」
「.....そ.....そんな馬鹿な.....!?」
「.....私は覚えています。.....貴方の必死な血だらけのユニフォームを。.....貴方の必死だった私を助けてくれたあの顔を。.....だから私は.....あの時から好きになったんです。.....私を助けてくれたあの男の子を。10年間私は探していました」
「.....そんな馬鹿な.....事が」
「.....だから先輩。.....いや。.....元輝さん。.....私は貴方が好きなんです」
「.....」
唖然どころじゃない。
そもそも、何てこった、と思った。
10年間.....知らなかった少女の名前を。
今此処で知るなんて.....そんな事が。
俺はココアの缶を拾いながら.....そのまま捨てつつ。
栗林を見る。
「.....10年間.....俺を探していたのか」
「.....そうです。貴方を探して.....そして私は.....貴方があの職場に居る事を知って.....それであの職場に入社しました。私は貴方が好きです。.....元輝さん」
「.....そうか.....。有難う。.....でもな。.....御免な。.....本当にゴメン。.....俺は.....誰とも付き合う気は無いんだ」
「.....分かってます。.....貴方がショックを受けられている事。.....だから私は待ちます。.....貴方が私に振り向いてくれる事を。あの娘よりも魅力的になります」
「.....栗林.....」
見ていて下さい先輩。
私だって......こんなに良い女の子なんですから。
年下に負けないです。
私だって.....10年間想い続けたんですから。
探し続けたんですから、と。
満面の笑顔を見せる栗林。
まるで臓器の結石でも取れたかの様な感じだ。
俺は赤面しながら栗林を見る。
「.....ああ良かった。胸に支えたものがスッキリしました。.....先輩に告白出来て」
「.....ちょっと待て。.....マジに.....何故.....今まで黙っていたんだ」
「.....私は.....磨きが足りない。先輩に追いついていないと感じました。.....だから今になったんです。.....先輩。大好きです」
「.....」
10年前。
俺は.....俺達をスタジアムから帰路に着いている際のバス事故で.....避難していた時。
女の子が、助けて。助けて、とバスの近くで呻き声を上げているのを。
次いでにバスの近くにその女の子が倒れているのを見つけた。
それで駆け寄ったのだが。
その際に.....車が炎に包まれ始めて.....落ちてきた破片が足を直撃し。
俺は足を思いっ切り負傷した。
その代わりに栗林を救出したのだ。
俺はその後、女の子にお礼を言われて住所とかを聞かれたが。
そのまま俺は立ち去ったのだ。
それからは先生に呼ばれたり救急車で運ばれたりして女の子とは離れ離れになり。
結局何もかもが曖昧で分からず仕舞いになったのだ。
でもこれだけは覚えている。
年下で栗毛色の髪の毛ではあった、と。
確かに、だ。
しかしそんな馬鹿な事が?
こんな赤い糸の運命って有るのかよ、と思う。
俺は迫って来る栗林を見ながら。
真っ赤になる。
「.....負けないです。絶対に」
「.....栗林.....」
「だから元輝さん。.....私を部下としても女性としても見守っていて下さい」
「.....」
俺は赤面で.....何も言えずのまま栗林を見ていた。
それから仕事が終わり.....そのまま会社に帰宅する。
その中でも俺は心臓がバクバクいっていた。
こんな身近な女の子に告白されるとは思ってなかったから、だ。
マズイ.....ドキドキする。
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