第6話 すれ違い

昨日寛太の店で決心した通り、まずは山本に話かることを今日の目標にしよう。


会社に向かう車の中で何についてしゃべるかシミュレーションしてみた。


「仕事は楽しいか?」


これは違う。俺に怒られまくってて楽しいわけがない。


「俺の指導は厳しいか?やっぱり嫌な思いをすることもあるよな?」


これも違う。厳しいし、嫌だし、嫌いと言われたら立ち直れない。


「高岡とはどんな関係だ?好きなのか?」


これは絶対違う。


昨日二人で飲みに行ったことが再び思い出され、イライラしてきた。


一人で考え自爆していることに笑えてきた。


これ以上考えるのはやめよう。


とにかく自然体でいこう。


会社に着くまではラジオに耳を傾け、特に何も考えずに会社に向かった。


会社に着くといつも通り、山本が来るのを待ちながら仕事をする。


いつもの時間になると山本が出勤してきた。


「コーヒー淹れますね。」と声をかけてくれたので、「ありがとう」と言いながら顔をあげる。


視界に入ってきた山本は明らかに昨日飲み過ぎましたという顔をしている。


また、イライラが込み上げて来る。


そのイライラをぶつけるように


「昨日、高岡と二人で飲みに行ったのか。大事な仕事をほって飲みに行くとは良いご身分だ。普段は俺が怒ってばっかりだから、高岡になぐさめてもらったのか。」と口走っていた。


山本は驚いた顔でこちらを見たがすぐに


「昨日は順と二人ではなくて総務の片岡さんも一緒でした。課長に言われることは、適格な指示なので怒られているとは思っていません。」


と少し怒ったような顔でこちらを見ている。


総務の子が一緒だとしても、一緒に飲みに行っていたことにまた腹が立ち


「高岡のこと、会社で下の名前を呼ぶんじゃない。ちゃんと公私を分けれるのが社会人だろ。」


こんなことどうでもいいはずなのに、八つ当たりするかのうに言ってしまっていた。


何故か山本はイラっとした表情をして、声をこわばらせながら


「課長こそ香さんと下の名前呼び合ってるじゃないですか。公私が別れていないのはれていないのは課長もです。」


何故今俺の話をしているのか、しかも香なんてなんてことないのに何を言っているんだとさらにイライラした。


「俺と香のことは今関係ないだろ。俺は高岡と山本のことを言ってるんだ」


急に山本が涙目になって、「すみません」と言うと給湯室へ行ってしまった。


俺は我に返り、今言ってしまったことをひどく後悔した。


半分八つ当たりのようなことで、山本にひどいことを言ってしまった。


俺は一体何がしたいんだ、これは完璧に俺が悪いから謝ろうと山本が来るのを待った。


コーヒーを淹れ終えた山本がこちらにやってくる。


もう涙目ではなくいつもの山本だ。


その姿にホッとして謝ろうと口を開こうとした時、


「先程は失礼な態度をとってすいませんでした。高岡は気のおける同期なので、つい下の名前で呼んでおりました。周りの方が不快な思いをしているのに気がつきませんでした。以後気をつけます」と言って山本が頭を下げた。


俺は何でお前が謝るんだよ、俺がふっかけたから俺が全部悪いのにと思い、すぐさま


「すまん。言いすぎた。今のは俺が悪かった。コーヒーありがとう」と言うと


幼稚な態度が急に恥ずかしくなり、それ以上山本の顔をみることが出来ずパソコンに視線を移した。


その日の午前中は妙に山本を意識してしまっていたが、仕事は仕事で割り切って対応することに努めた。


お昼になるといつも通り山本と高岡が席を立った。


ただ、いつもと違うことが起きた。


山本が高岡を見ると、「高岡、食堂行こう」と言っている。


それを聞いた高岡はごちゃごちゃ言っているが、山本が俺の話を受け止めてくれて行動に移してくれたことが嬉しかった。


感情でしゃべっていた俺の言葉を真剣に受け止めてくれた事実に改めて、山本が良い女に見えてきた。


俺は相当、山本にはまってしまっているようだ。


良い気分で食堂に向かうと、香を見つけた。


ちょうど隣の席が空いていたので座った。


「何よ、さっきからニヤニヤして気持ち悪い。」と香が嫌そうな顔で俺を見ている。


「なんでも無いよ。俺はとんでもなくどうしもない男だなと改めて思って不甲斐ない思いをしているだけだ。」


香と同でも良い話をしながらランチを食べていた。


食べ終わりかけたころに、山本の声が耳に入ってきた。


声がする方に顔を向けると、何を言っているか聞こえないが山本と高岡が揉めている。


香も気付き「相変わらず仲が良い二人ね。」と笑いながら言っている。


その言葉に俺だけじゃなく、他の人が見ても二人は仲が良いということを改めて認識し、ブルーな気持ちになった。


午後は最悪な状況だった。


山本のミスが連発し、優しくしたい気持ちもあるが怒鳴りつけてしまう自分が嫌だった。


とにかく今日は早く終われと思いながら、やっとのことで午後の仕事を終えた。


終業直後、香がやってきて


「祐樹、早くしないと遅れる。終わったらすぐきて」


すっかり忘れていたが、今日は兄貴と結婚式の打ち合わせがあるから送ってくれと言われていた。


帰りは兄貴の車で一緒に帰りたいと香からも兄貴からも言われて、居候の身で断ることでできなかった。


香を結婚式場まで送り届けると、今日は最悪な一日だったので直ぐ帰る気がせずドライブしてから帰る。


車を走らせながら、ぼんやりと山本のことを想った。


これからは優しくしようこれから、少しでも俺の方を向いてもらうために。

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