第3話 再会

会社に着くと、早速香を探した。


香とは同じ会社に勤務していて、総務部で帰国後の続きなど面倒をみてくれることになっている。


申請関係のことで呼ばれていて、ついでに関係者も紹介してくれると言っていた。


香を見つけると近り「さっきはありがとう、今日からよろしく。」と声をかける。


「祐樹、久しぶりね。元気そうでなにより。」と朝から嫌味を言ってきた。


今朝、朝ごはん食べ終わって電車に遅れそうだったから片付けをせずに出てきてしまっていた。


嫌味を言われるようなことをした、俺が悪いんだが。


「会っていきなりで悪いんだけど、今日中にこの書類書いてちょうだい。」


「ほんと、会って早々だな。分かったよ。書いたら持ってくる。」


「朝からごめんね。あと、関係者紹介したら、企画部へ案内するわ。」と言って、香は俺を連れて各部署のお偉いさんに紹介してくれた。


お偉いさんといっても、5年前に日本で働いていたときに一緒に働いていた人ばかりだし、アメリカにいるときも連絡していたので、みんな顔見知りだ。


一通り挨拶が終わると、企画部へ連れていってくれた。


香にお礼を言ったところで、ちょうど始業を告げるチャイムが鳴る。


一通り、企画部のメンバーを見渡してから、挨拶をしようと見ていると、さっきの残念な美人が目に入った。


あの残念な美人もこの会社とは世間も狭いもんだと思ったのと同時に、俺のことを見てどう反応するのか楽しみだった。


「みんな少し良いか。」


と言ったところで残念な美人が俺のことを見て、どうやら気付いたようだ。


慌てて顔を伏せている。


「今日からここでお世話になる北見祐樹です。私は無駄なことが嫌いなので、挨拶も手短にします。これからよろしく。みなさんの働きに期待します。以上。」と言って手を叩いて、自分の席に向かった。


残念な美人の様子をみたかったが、あんまり見ても不自然だし、これからどんな態度をとるのか楽しみだったので、ひとまず気付かないふりをすることにした。


残念な美人も気になるところだが、メンバーの仕事ぶりも気になっている。


企画部メンバーの履歴書と今までの仕事を確認しようと資料を準備してもらっていた。


早速、準備しといてもらった資料に目を通す。


順番に見ていると残念な美人の履歴書が出てきた。


そこそこの大学を出ていて、もとは優秀だと思われる。


ただ、今までの資料を見ると、ぬるま湯につかりながら仕事をしていたようだ。


しごきがいがありそうだと、この先のことを思うと楽しみになった。


資料を見ながら、時々残念な美人に目を向けると、俺に気付いているようで、そわそわしながら仕事をしている。


他のメンバーものんびり仕事をしているようだ。


午後からはこんな状況ではダメだと思い知らせてやるぞ、と心の中で言ってみんなを見渡した。


昼は香を見つけて一緒にランチをした。


残念な美人と企画部にいた男と、これまた可愛い3人でご飯を食べているのが目に入った。


朝見たときはクールな感じだなと思ったが、笑うと可愛いなとぼーっと残念な美人を見ていた。


香に「何考えてるの?」と声をかけれられてはっとして、まさか女を見ていたなんて言えないので、残りのランチをかき込んで、企画部へ戻った。


今朝の出来事が強烈すぎたのか、残念な美人が気になってしまう。


ふとした時に目を向けてしまっている自分に気付く。


良い年齢の女がファスナー全開だったことに、驚いただけだ、すぐ気にならなくなると自分に言い聞かせた。


ちょうど午後のチャイムが鳴り、残念な美人とお昼を一緒に食べていた男がぎりぎりに戻ってきた。


午後から気合を入れいていくと決めていたので、納期の早い書類、重要プロジェクトから訂正させていくことにしよう。


午前中赤ペンを入れていた資料の担当者を次々に呼び出して、叱り飛ばした。


みんな元は良いはずだから、ここでふんばってくれれば凄いチームになることは確信していた。


ただ、前の課長が優しすぎたのか、終業前になると怒られすぎてみんな次誰が呼ばれるのだろうかと、びくびくしているのが分かった。


残念な美人の仕事ぶりを午後もちょくちょく見ていたが、午前中程ではなく、一応仕事に集中しているように見えた。


ただ、俺が叱り飛ばしている声に反応してびくびくしていた。


まるで小動物のようだなと思った。


残念なことに、残念な美人を呼ぶことは今日はなかった。


終業のチャイムと共に香が駆け込んできて


「祐樹、各部長が待ってるから早く準備して。」


しまった、すっかり忘れていた。


終業後歓迎会をしてくれるって言ってたな。


とりあえず、忘れてたというと怒られそうだったので、


「おい、まだみんな残ってるのに下の名前で呼ぶんじゃない。」とごまかして、慌てて準備を始める。


みんなを待たせては悪いと思い、急いで企画部のフロアを出る。


出てエレベーターを待っていると、企画部のフロアが騒がしい。


俺が部屋を出たから、しゃべりはじめたのか。


何故か仲間外れにされているようで寂しかったが、あれだけ怒ればそういう扱いになるよな。と初日から少しブルーな気持ちになった。


部長達との歓迎会はそれはそれは盛大にやってくれて、俺の新人の頃のミスや、恥ずかしい話で盛り上がっている。


散々みんな言いたい放題言っているが、この人達のおかげで今の俺がいる。


今の企画部の連中にもそう思われたいな。


あれだけ怒っていれば、そう思われる道のりは遠いだろうが。


と一瞬飲んでいるのも忘れて、考え込んでいた。


そんな俺の様子をみた部長達は、「そんな真面目な顔して、さては飲み足りないなー。」と言って俺のグラスにがばがば酒をいれてくる。


会が終わるころにはべろべろになって、足元もおぼつかない状態だった。


会がお開きになる。


一人ずつ部長に今日の御礼とこれかからのことをお願いして、解散した。


香に帰りの車を頼んで心底良かったと思った。会社に車を置いてあったので、とりあず二人で会社に戻った。


気分が良かったから、さっきの昔話を香と話しながら会社に入っていく。


酒も入っていて、気分も良かったから、くだらない話で十分笑えた。


駐車場に行くために、エレベーターに向かう途中で、残念な美女と企画部の男が二人で歩いている。


残念な美女は俺を見た途端、顔をそらした。


なんか感じが悪い。


おまけに、今日は何回あの男と一緒にいるところを見ただろう。


確か名前は高岡といったな。


あの二人付き合ってるのか?


折角気分が良かったのに、一気にイライラしてきた。


そんな俺に香が気付き、「さっきまでご機嫌だったのに、今はイライラしてる。本当に気分屋ね。」


「そうだ、俺は気分屋だ。ところで、さっきすれ違った企画部の美女は彼氏がいるのか。」と無意識に香に聞いていた。


「山本さんのこと?聞いたことないけど、さっきの高岡くんとめちゃくちゃ仲が良いってのはみんな言っているわ。」


その返事が気に入らなくて、「尻軽女は嫌いだ。」と言って、車に乗り込み深くシートに座り込んだ。


香は呆れながら「祐樹、飲みすぎよ。自己管理してよね。」とブツブツ言いながら、車で兄貴の家まで向かった。


酒を飲みすぎていたし、初日で疲れていたこともあって、あっという間に眠ってしまっていた。


気付くと朝になっていて、ソファーで目が覚めた。

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