25 律子

車から、降りて来る女性は、


律子 元彼女だ



律子については、


思い出したくない記憶だが




僕を店に置いて行ったきり


連絡の途絶えた元彼女だ



結婚まで考えた


出会ったのは、飲み会で


強引な性格で


ランチに遊園地に


僕は、誘われては、


一緒に行く感じで、


気がつけば付き合って


四ヶ月目には、


お互いの家族にも会った


半年経った時に


レストランで改めて「結婚を前提に」と告白したら


「それ重い」律子は、言い残し


一人、店を出て行った



会ったのも


それが最後だった


思い出したくもない



久美子さんと出会う半年前の話だ



律子は、そのことが無かったように


「元気」と声をかけた


「元気だけど、どうしてここに?」と聞くと


律子「お母さんから、ここの場所を聞いて」


母も別れたことを知っているはず


「勝手に何を」


母に怒りもあったが


そもそも母にもここで


結婚生活をしているとは、話していない



律子は、「あれっきりだったから、一度会いたいと思って」


「置いて言ったのは、誰だ」そう言いたかった


ハシゴの上のジョー君に気がつくと


律子は、「お邪魔したね」と言い帰った



「お邪魔したね」と言い振り返った後ろ姿は、


最後に見た時と同じ


長い髪の毛先が金色に靡いていた



走る車を見送りながら


「何しに来たのか、こんな遠くまできて」


「何か言いたかったのか」


すごく気になった


「あのまま、終わるのが嫌だったのか」


「ちゃんと別れが言いたかった」とか


いや


僕は、フラれたんだ


僕の渋い顔に


ハシゴの上から、にやけ顔のジョー君が見えた


「俊介さん誰」


ジョー君が聞いた


「元彼女だと話した」


ジョー君は、「そう」と言った


もっと何か言いそうだったけど


その後も、修理を続けた



陽も落ちだし暗くなる頃には、修理は、終わった


綺麗に継がれた庇は、まっすぐで


プロの仕事だった


トラックに余った資材を積み込み


「いろいろ、迷惑かけました」


「じゃー、帰ります」


ジョー君は、帰ろうとした


僕は、「ちょっと、」「遅いから泊まっていきなよ」


咄嗟に言ってしまった


昨日の後悔は、どこに、、、



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る