第31話 お布団ねこ
31話 お布団ねこ
既に身体がふにゃふにゃになってしまっている幽霊と協力してリビングの中央に空きを作り、机なんかを全てどけて床に布団を敷く。
枕、掛布団を丁寧に整えると、満身創痍の幽霊は吸い込まれるように布団にもぐり、目を閉じた。
「すぅ……すうぅ……」
「あらら、電池切れか」
初めて見る、愛しい人の寝顔。くりんと大きな瞳を閉じ、小さな吐息と共に幸せそうな笑顔を浮かべてよく眠っている。はっきり言って、最高に可愛い。
「……まあ、とりあえず」
パシャリ。脳内のスクリーンショットでは限界があるため、ひとまずスマホのカメラを起動してバッチリとその寝顔を捉えた。軽く二十枚ほど撮ったところで一息入れ、ベッドに腰掛ける。
(壁紙にしたら、怒られるかな……)
撮った写真をフォルダ整理しながら、ゲームのロゴの画像になっているロック画面を思い浮かべる。
ふと時間を見たい時、通知を確認したい時、気分で開く時。その度に幽霊の寝顔を見れるというのは魅力的なのだが、彼女は太一のスマホを見ることができる機会が多い。パスワードの有無はロック画面には関係ないため、多分すぐにバレるだろう。
だが、ホーム画面はまだ変えたくない。今は彼シャツ幽霊と撮ったツーショットのうち彼女の姿だけを映したものを壁紙にしている。幽霊フォルダの中でも、堂々の選抜レギュラー第一位だ。
少し悩んだ末、太一は壁紙の変更を一旦保留にし、「幽霊さんの寝顔」フォルダをそっと閉じた。
「ん、ぅ……太一……しゃん……」
枕をきゅっと抱きしめながら、自分の名前を呼んで嬉しそうに微笑む幽霊。思わず抱きしめそうになるのをグッと堪え、太一はそのままベッドに倒れ込む。
もう歯は磨いているし、お風呂にも入った。特にすることもないし……と。部屋の電気を消して、太一もベッドの中に篭り、そっと目を閉じた。
いつもはそこから眠るまでに時間がかかるのだが、色々と忙しい一日で疲れついたのか。気絶するように太一の意識は闇の中に消えていった。
◇◆◇◆
「……んにゃ」
季節の割には、少し肌寒い夜だった。
低い室温、薄い布団、薄い服。ぷるぷるっ、と軽く身体が震えると共に、リビングで密かに目を覚ます幽霊が一人。
「んっ……んぅ」
頭は寝ている。半開きの目と、無意識に温かみを欲する身体のみが機能し、幽霊は布団を引き寄せて丸まった。
だが、被り方を変えただけでは解決には至らない。ほんの少しだけマシにはなったものの、寒がりの彼女にとってら問題は未解決のままだ。
「へくちっ! う、ぁう……」
むくりと上半身を起こし、むずむずとした鼻を指で擦る。まだ意識は半分起きたのみといったところか。こくん、こくんと座っていない首は上下に揺れ、何度か目を擦ってはいるが完全に起きる気配はなかった。
当然だろう。現在の時刻は午前二時半。普段であればまだまだ寝ている時間(幽霊が一番活動しやすいとされている丑三つ時に動かず、日中にピンピンしているというのも変な話ではあるが)だ。安眠を求め、身体はより暖かそうな場所を探す。
「……」
そこで目に入ったのは、部屋の端のベッド。自分の布団より明らかに分厚い二枚の布団を被った太一が一人、眠っている。
羨ましい、自分も欲しい。そんな考えがよぎったかのように、布団から這い出る。赤ちゃんのように両手足で進みながら、ゆっくりとベッドの真横まで進んだ。
「…………おふとん」
もぞもぞ、もぞもぞと横から布団に顔を突っ込み、少しずつその小さな身体を収納していく。途中で太一の背中という壁にぶつかったが、そんなものでは止められない。上からの布団の重圧とつっかえる胸に負けず、背中を乗り越えた幽霊は安住の地を手に入れた。
そこは、太一の胸元。横に広げられた右腕を枕にし、少し丸くなって寝ているその身体の中に収まるよう、幽霊は更に丸い体制を取り、主人と眠る猫のように密着する。
ポカポカと暖かい太一の体温に、少し硬いけれど顔を埋めるとどこか落ち着く、そんな腕枕と胸板。
「えへへ……うにゃ……」
さぞかし気持ちいいのだろう。満面の笑みで籠った幽霊は、再び完全に眠りの中に落ちた。
次に目が覚めるのは、五時間後。それまでの、短い時間の天国である。
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