第26話 猫パラダイス

26話 猫パラダイス



「ごちそうさまでしたっ!」


 ペカッ、とした笑顔を浮かべながらご機嫌でそう言い、幽霊は手を叩く。


 夜ご飯を終えた直後である。太一も肉じゃがをかなり取られながらもその分を白ごはんでカバーし、お腹をいっぱいにさせていた。


「ささ、太一さん! パソコンの続きをしましょう!」


「了解です。とりあえずお皿だけ台所に運んでおきましょうか」


 二人で空き皿を台所の水につけ、後々のこべり洗いを楽にする工夫をしてから、パソコンの待つ部屋へと戻る。


 勿論先程開いてしまったサイトの履歴はしっかりと消しているので、また使える状態だ。


 そんなパソコンの電源を自分で入れ、ディスプレイを開いた幽霊は正座で待機する。まるで塾の先生と生徒みたいだなと、太一は思った。


「じゃあ、次は開いてはいけないサイトのことを教えて、最後に動画サイトの見方を教えます。家で一人の時時間を潰せる事間違いなしです」


「動画……っ!」


 期待に胸を膨らませる彼女を横目に、早速講座を再開していく。


 まずは、有害サイトについて。これに関してはある程度例を挙げて「これは触ってはいけないもの」と見せるのが一番良いと思ったので、太一は手っ取り早く画像を調べて見せていく。


 とは言ったものの、幽霊がそれらのサイトに入ってしまう可能性はかなり低いと、心の中では薄々感じていた。


 何故ならこういったサイトのバーが多いのは、決まってアダルトサイトだからである。稀にさっきの彼女のように普通のサイトを見ていても踏んでしまうことはあるが、一度存在を知ればもうそのような事も起こるまい。


 太一はその説明を必要最低限にしておいて、幽霊が最も楽しみにしていそうな動画サイトの説明を急ぐことにした。


「これが、YourTubeです。アニメやドラマ、他にも面白い系の動画や勉強会の動画等々。幅広い分野の動画が投稿されています」


 今の時代、テレビよりも再生されているであろうコンテンツ。もはや幽霊以外の相手には説明の必要はないであろうこれのことを、ザックリと説明する。


 ただでさえ太一の帰宅を待っている間は手持ち無沙汰で、そのせいでシャツの匂いを嗅いでしまったり玄関先で帰りを待っていたりと、恥ずかしい行動をしてしまう事もしばしば。


 そんな彼女に、まさにうってつけの一品である。


「太一さん! これ、これ見たいです!!」


「え? あー、はい」


 動画の再生ボタンを押し、数秒の広告を視聴した後に流れた映像。


「にゃーっ! 可愛いですッッ!!」


 幽霊が食い入りながら見ているそれは、猫の癒し動画であった。


 猫カフェの公式チャンネルから投稿された、子猫と親猫のたわむれる姿。そんなほっこりとした映像が続く画面に、もう幽霊は釘付けでメロメロだ。


「むむっ、これは確かに……可愛いっ!」


「ですよね! ですよねっ!! ほら、特にこの茶色い子なんてクリッとした目が!!」


「奥にいる三毛猫も中々良いですよ!」


「本当ですね! にゃへへへへぇっ!!」


 そしてメロメロはすぐに伝染し、太一も彼女と動画を眺めてテンションを上げる。奇しくも二人とも、猫派だったのだ。


 何匹もいる猫にそれぞれカメラがピントを合わせてアップに映すたび、キャッキャと騒ぎながらその猫の可愛さを語り合う。


 そして、やがて八分にも及ぶその動画が終了すると二人は小さく息を吐き、余韻に浸った。


「久しぶりに猫動画なんて見ましたけど、癒されますねぇ」


「……太一さん、これは本物を家に置くのも検討してみては?」


「うちのアパートはペット禁止ですよぉ〜」


「むぅ……(´・ω・)」




 まあ色々とあったが、これにてネット講座は終了。太一が先生となる時間は、終わりを告げたのだった。

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