第15話 ガチンコスマファザ対決2

15話 ガチンコスマファザ対決2



『うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!』


 ズバーン。


『どりゃっ! はぁぁぁ!!』


 ドゴーン。


『チュゥッ、ヂュゥ……』


 ゴパァーン。


「……」


 二十二戦。幽霊、全敗。それはそれはもう散々な負けっぷりで、何度も何度も切り刻まれる電気ネズミがあまりにも悲惨である。


 初めの数戦は惨敗しようとも闘志を燃やしてすぐにリトライしていた幽霊だが、すぐに感じ取ってしまった。


────自分と太一の間に存在する、絶対的な戦略差を。それは決して、プレイングを見続けていただけでどうにかできるものではないと。


「ふふん、どうですか幽霊さん! もうそろそろ負けを認める気になりましたかぁ?」


 ちなみに太一はというと、ご褒美がもらえる事が確定してご機嫌である。段々と幽霊の悔しがる顔を見るのが面白くなってきて、今では完全に調子に乗っている。


「……太一さん」


「なぁんですぅ?」


「…………このコントローラー、感度が悪いみたいなんですよね。ですので私が責任を持ってお直ししますよ」


「え? それ買ってから全然日が経ってないやつですが……」


 そんな馬鹿な、と不思議がる太一に幽霊は満面の笑みを浮かべて、言った。


「まずは机の角あたりに叩きつけて、こじ開けてから中をいじくり回してみますね☆」


「!!? 幽霊さんストップ!! ごめんなさい調子乗りました!! だからコントローラー壊すのはやめてぇぇぇぇぇえ!!!」


 笑顔は一瞬で消え、すぐに目尻に溜まり始めた悔し涙と膨らんだ頬。全力の悔しさから来た八つ当たりにより振り下ろされる細い腕を押さえ、太一はその心境を察してすぐに謝罪を入れた。


「もうこんなゲーム知りません! 所詮はコイツらも画面の中に囚われた存在!! 一生私の前に現れなくなるよう、機材ごと全てぶっ壊してあげますよ!!!」


 ふしゅぅ、ふしゅぅ! と息を荒げながら意地でもコントローラーを破壊しようとする幽霊と、必死にそれを抑える太一。自分の実力を思いっきり過信していた雑魚メンタルと調子に乗って大人気ない快勝をあげた熟練者。どっちもどっちな二人は取っ組み合い、やがてはゲーム同様の力の差で、太一が暴動を鎮めるに至った。


「落ち着いてくださいよ……。コントローラー壊しちゃったらもう一緒にゲーム出来なくなっちゃいますよ?」


「ふんっ。もう私はこんなクソゲー知りませんっ。メタル騎士なんて大っ嫌いですぅ」


「練習すれば幽霊さんも上手くなりますから! ね? 俺はただ幽霊さんと楽しくゲームがしたいだけなんです!」


「……むぅ」


 幽霊の損ねた加減を治そうと、太一は必死に謙る。


 その結果、というべきか、一緒にゲームがしたいという言葉は何度も幽霊の脳内で復唱され、心は揺れ動いた。


「……ちゃんと私が強くなるまで、面倒見てくれるんですか?」


「それはもう! 手取り足取り教えさせていただきます!!」


「そう、ですか。なら……もう少しだけ、やってみることにします」


「やったぁ!!」


 はぁ、と己の恥ずかしい行動を振り返り、「さっきはすみませんでした」と一言謝って。幽霊はもう一度座布団に座り、コントローラーを握った。


「あ、でも罰ゲームはしますよ? 俺勝ったんで」


「……はい?」


 しかし、話はここで綺麗に終わりはしない。そう、幽霊には調子づいて言ってしまった、罰ゲームの執行が待っているのである。


 内容はなんでもする、というもの。彼女を溺愛している太一に、一番渡してはいけない罰ゲームだ。


「た、太一さん? 一緒にゲームしましょ?」


「はい、勿論しますよ。……罰ゲームをした後で!」


「ごめんなさい私が悪かったです!! ちょっと調子乗ってたんですぅ!! それに今いい感じに話まとまってたじゃないですか! なんでぶり返すんですか!?」


「俺は幽霊さんに何でもしてもらうために本気を出してボコボコにしたんです! ぶり返すどころか対戦中も何をしてもらおうかと頭の中は煩悩まみれでしたよ!!」


 そう、煩悩まみれでも勝てるほどに幽霊は弱かったのである。そして同時に、太一の中で執行内容はほとんど決定していた。


 幽霊に嫌われないよう、直接的すぎず。しかし、自分の欲望には忠実に。二つのちょうど狭間を狙う、その内容は────


「幽霊さんには白装束を脱いで、普通の格好をして俺とツーショットを撮ってもらいます!!」




 幸か不幸か、幽霊がどうにかしたいと願っている悩みの種に直結するものであった。

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