第14話 ガチンコスマファザ対決1
14話 ガチンコスマファザ対決1
「お待たせしました幽霊さん! さ、やりましょう!」
シャワーを浴び、ドライヤーで全速力で髪を乾かして。太一はテレビの前にちょこんと座る幽霊の元へ駆けつける。
あらかじめ用意を済ませていた幽霊の隣に置かれているのは、配線が繋がれたゲーム機本体とコントローラーが二つ。普段から太一の生活を陰ながら見ていた彼女にとって、その用意はとても容易なことであった。
「ゲーム、何がしたいですか? スマファザかユリカー……あとは柚鉄なんかがありますけど」
「断然スマファザですッ!! 太一さんをこの手でボコボコにしてやります!!」
「ひぇっ」
スマファザ。正式名称を大乱闘スマッシュファーザーズ。このゲーム機を作った会社である青天堂が誇る色んなゲームのキャラなんかが大量にラインナップされており、その中から自分が使うのを選んで戦う、いわば格闘ゲームだ。
ちなみに太一は、このゲームが大の得意である。得意キャラであるメタル騎士ではVIPと呼ばれる称号を手に入れるほどに、やりこんでいる。
幽霊もその強さは後ろからよく眺めていたはずなのだが、ハッキリ言ってナメている状態だ。一人で対戦をしている姿ばかり見ていたため、対人戦闘においては初心者であると思い込んでいる。……一人で対戦していた相手が、オンライン通信の世界中のプレイヤーだとは知りもせずに。
「基本操作は薄らと太一さんのをプレイを見て覚えました。早速戦いましょう!!」
「え、教えたりとかしなくて大丈夫なんですか? 正直言ってその……初心者さんに負ける気がしないんですが」
「むむっ、言いましたね。けちょんけちょんにしてあげますから、早く座ってください!」
自分の隣に座布団を移動させ、ぽんぽんと叩く幽霊に導かれるように、太一はその上に正座する。
そして同時に考えていた。
(どうやって幽霊さんにバレないように手加減しよう……)
太一には百パーセント、初心者の彼女になど負けない自信がある。しかし大人気なく本気を出して叩きのめすのは、流石に道徳心が無さすぎだ。彼女が練習という過程を飛ばすのなら、もう手加減する以外に道は無い。それも自尊心を傷つけないよう、決してそれを悟らせる事なく。
「ふふんっ♪ ユリオにユイージ……あっ、この子可愛い……」
カチャカチャ、とコントローラーを動かし、数多くのキャラを品定めするように鑑賞しながら彼女が選んだのは、某電気ネズミ。愛らしいマスコットキャラであり同時に大人気国民的キャラクターであるため、ファンの多さから使用率も高い。
だがそれ故に、太一は何度も対戦したことがあった。どの技が強いか、どのようにコンボを決めてくるか、はたまた細かい戦闘スタイルの型まで。中々の数の情報が脳内に残っている。
(このキャラ相手ならパターン分かるし、ある程度ダメージ受けてから勝つかぁ)
「あ、太一さん。言っておきますが手加減とか考えたらダメですからね。まあそんなことされなくても勝つ気満々でいますが、これでも暇な時間ばかりであなたがスマファザをしている光景は何度も見てきました。手加減、気づけるくらいには!」
ふんすっ、と鼻息を荒くしながら、俺が本気キャラメタル騎士を選ぶのを見届け、幽霊はゲームスタートのボタンを押す。
太一の胸の内に、不安の種を植え付けて。
「は、はは。手加減なんて勿論しないですよ!」
(そんなに俺のプレイング見られてたの!? 手加減見破られるくらいに!?)
まずいことになった。それはつまり、これまで幾度となく電気ネズミを張り倒し、切り飛ばし、フルボッコのけちょけちょにしてきた光景を何度も見られているということである。
つまり、初心者である彼女が使うことで超劣化したネズミから攻撃を受ける光景は、違和感しかない。本気で戦えばほとんどダメージを受けることなく完勝できること間違いなしだが、それをして幽霊が悲しむ姿は絶対に見たくはない。
葛藤を繰り返す太一。だがその選択を強いるように、彼女は追い討ちをかけてトドメを刺す。
「ふふっ、プレイするの自体は初めてですが私の中の脳内予行練習は普段から繰り返されてもう実力では追いついています。ですから本気の太一さんと戦うために、私に勝ったらご褒美をあげましょう」
「ご、ご褒美ですか?」
「なんでもしてあげますよ。私に、勝てるならですけどねっ!!」
「……了解です」
カチッ。太一の脳内で、何かのスイッチが入った音が鳴った。
「ゴホウビ……ッッ!!」
彼はこれより、″修羅″と成る。
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