第12話 親友との駆け引き
12話 親友との駆け引き
「ん、あぁ! やっと終わったぁぁ!!」
「おい何やり切った感出してるんだ? 寝てただけだろお前……」
お昼時は終わり、午後三時。太一は卓との三限の講義を終え、帰り支度を始めていた。
ちなみに卓の方は昼飯終わりだから仕方ない、と開き直って堂々と爆睡し、講義が終了する合図のチャイムと共に起床したところである。
「言っとくけど、絶対講義メモ見せてやらないからな」
「そんな殺生な!? この間食堂で飯奢ってやっただろぉ!?」
「それはその時見せた分の礼だろうが。しれっと今回の分も纏めようとするんじゃねえよ」
「じゃ、じゃあ次の講義の時メモ見せるからさ……! ほら、なんならサービスで出席点も一回分付けるぜ!? この講義全部あの機械に出席カウントは任せてるしさ!!」
「む……それは少し揺れるな……」
金曜日の太一が履修している講義の時間割は、二、三限。二限は十一時から十二時半までで、三限は十三時半から三時までである。
つまり三限を受ける必要がなくなれば昼には家に帰る事ができ、幽霊と昼ごはんを共にできるというわけである。
ちなみにその講義の出席は、教室の端に取り付けられた機械に生徒証を読み込むことで成立となる。他の講義も全てそうなのだが、機械を読み込んで出席点だけをもらいこっそり帰る生徒も存在しているため、講義終盤に機械とは別で出席を取る、なんてのも珍しくはない。
しかしこの「経済論」の講義に関してはその心配はなく、先生の一方的な話で一時間半が終了する講義なため、生徒証さえ読み込んでしまえばこちらのものであった。卓が言っているのは、その役目を自分が代わりにしてやるというものである。こっそり抜け出すリスクを負わず、出席点を手に入れられる安全策だ。
「……分かった。けど俺がいない次の講義で寝るなよ? メモ見せるってんならさ」
「任せとけ!!」
グッ、と自信気に親指を立てる卓に若干の不安を覚えながらも太一はメモを手渡し、写真を撮らせて手さげにしまう。
「じゃ、帰るか。卓もこの後は講義無かったよな?」
「おーう! 帰るべ帰るべ!」
アパートで一人暮らしをしている太一同様、卓も別の場所で一人暮らし。それも距離はそれほど遠くないため、二人はよくどちらかの家に行ってゲームをしたりと弛んでいる。
そのため当然帰り道は同じで、いつものように必然的に、歩きながら同じ帰路を進む。
「あ、そういえばよ。この間言ってた子とはどうなんだよ。そろそろフラれたか?」
「おい何故フラれる前提なんだ」
「……? お前に彼女が出来るとでも?」
「テメェ……」
冗談で言っているだけなら良いのだが、長い付き合いだからこそよく分かる。卓の言葉は、本音である。
お互い高校生活を陰キャ道まっしぐらで過ごした同志。太一が卓に彼女など出来るはずがないと思っているのと同様、卓も同じ考えであった。
「というか、大学出会いがあるとも思えないし……かといってお前が出会い系なんかをやるとも思えないし。バイトもしてないってなると、同じアパートの住人か何かなのか? そのお相手は」
「ん? ああ、まあそんなところだな。あれだ、お隣さんだよ」
「お隣さんが美人なのか!? お前、なんて羨ましい生活をッッ!!」
本当はお隣さんどころか同居人なのだが、そんなことは口が裂けても言えるはずがない。ましてや幽霊なんて言ったら、卓の頭は許容限界で確実に破裂する。
「……なあ、見に行っちゃダメか?」
「は!? ダメに決まってるだろ!!」
「じゃあ邪魔するのは? お前が裏切り者になる前に」
「真顔で怖いこと言うな。帰れ帰れ」
少し会話している間に、あっという間に場所は二人が別れる十字路。だが卓は、目の前でいきなり陰キャ時代からの戦友がラブコメのようなことを始めようとしていることに納得がいかない様子。
ここで別れても平気で後をつけてきそうなその雰囲気に、太一は仕方なく折衷案を切り出した。
「……分かった、分かったから。今は無いけど近いうちに写真撮って見せる。それでいいか?」
「けっ、分かったよ。仕方ないから今日はそれで手を打っておこう。お前が本気で好きになった人がどんな人なのか……素直に気になるからな」
そう言って卓は別れの挨拶を告げ、背を向けて家へと帰っていった。その様子にホッと肩を撫で下ろしながら、太一もまたアパートへと向かう。
「幽霊さん、ちゃんと昼ごはん食べててくれてるかな……」
────幽霊の待つ、愛しの我が家へと。
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