第3話 仲直りのプレゼント
3話 仲直りのプレゼント
「はぁぁぁぁ〜〜〜」
「おお、どうしたんだよ太一。そんなクソデカため息なんか吐いて」
「うるせぇよぉ。少なくとも童貞のお前には絶対解決できないことだからよぉ〜」
「あぁ!? テメェも童貞だろうがっ!!」
翌日。太一は悩んでいた。
どうすれば幽霊さんとお近づきになれるのだろう。そもそも、どうして昨日は逃げられてしまったのだろう。……また、出てきてくれるのだろうか。
結局夜もほとんど眠れず、彼女のことばかりを考えて。午前の講義もまともに頭に入らないまま、昼を迎えてしまった。
(せめて、名前くらいは聞きたかったなぁ……)
あなたに名乗る名前はない。つまり、名前自体はちゃんとあるってことだ。知りたい。なんとしても知りたい。幽霊さん、なんて呼び方じゃなく、ちゃんと名前で呼びたい呼ばれたい!!
「ったく、お前が一丁前に悩み事なんてムカつくな。しかも恋愛関係とは」
「お前には一生縁のない悩みだもんな」
「野郎ッッ!!」
笹原卓ささはらたく。太一にとっては高校からの親友で、共に帰宅部ライフを過ごした戦友。なお、こちらも恋愛経験はなし。
大学の食堂の壁際の席で二人、それぞれオムライスとビビンバ丼を食べながら過ごすいつも通りのキャンバスライフ。大学に入って二ヶ月、最初は何が何やらだった講義などにも少しずつ慣れてきて、余裕が出てきた時期だ。
「なんだかよくわからんが、お前のことだ。また高嶺の花にでも惚れちまったんだろ。いいからやめとけ」
「しばき回すぞ? 大学デビューで調子乗って茶髪なんかにしやがって。高校時代のメガネ陰キャだった頃の写真ばら撒くぞコラ」
「……それだけは、勘弁してくれ」
はぁ、とため息を吐きながら少し口が悪いながらもいつも通りな会話を続け、昼食を食べ終わり席を立つと卓は言う。
「まあそんなことよりよ、いい加減めぼしいサークル見つかったか?」
「見つかってねぇよ。そっちは?」
「勿論見つかってない。緩い感じの運動サークルなんていくらでもありそうなんだが、意外と少なくてな。しかも可愛い子もいるのが条件となると……やはり難しい」
「お前も中々理想高めだよな」
一応、二人で同じサークルに入ろうと約束してはいるものの。案外心の底から入りたくなるサークルというのは見つからないものだ。その結果気づけば早くも二ヶ月が経ち、出遅れているわけだが。
「ま、見つけたら連絡くれよ。俺はもう今日は帰るから」
「あん? お前三限は?」
「今日うちの教授体調崩したんだと。だから休講だよ」
「けっ、羨ましいなぁ」
太一と卓は同じ学科ではあるが、全ての講義が同じクラスというわけではない。苗字順で並べられることが多いこの大学では、さ行とや行はほとんどの授業で離れてしまうのだ。
そのため、本日の三限の講義のクラスも当然違う。よって卓は三限を受けに行かねばならないものの、太一だけ帰れるという状況が完成する。
「じゃあな、精々叶わない恋は早めに諦めつけろよ〜」
「余計なお世話だよ」
卓と別れ、一人食堂を出る太一はそのまま大学を出て、家への帰り道を歩く。
(さて、幽霊さんが次出てきた時用の作戦を考えておかないとな)
まずは何より、向こうの警戒心を解いて友好的になる事だ。その第一歩として名前を聞こうとしているわけだが、そのための案はまだ何一つ浮かんでいない。
なにせ、いきなりエッチな動画を見ているところを目撃されてしまったのだ。向けられる友好度などあるはずもない。
「……そうだ! まずはプレゼントをしよう!」
喧嘩や仲違いをして女子に嫌われた時、仲直りをするために有効的なことで一番初めに浮かぶのは、プレゼントだ。貰って喜ばない人なんていないし、これなら幽霊さんも少しは……せめて、名前を聞いて少しくらいお話しは出来るかも。
「ヨシ! 完璧だ!」
思い立ったが吉日。太一は帰り道から少し逸れたところにあるショッピングモールへと足を運んだ。
プレゼントするものはもう決まっている。それを選ぶ店も、何度も来たショッピングモールの中ならどこが一番適切か、何となくは分かっていた。
(幽霊さん、喜んでくれるといいな……)
人生初めての、異性へのプレゼント選び。なんだかリア充みたいだな、と一人気持ちを昂らせながら、駆け足で太一は店へと急いだ。
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