第003話 瞳にはルビー

 リェリィはしばらく視線を彷徨わせて、観念したように目を瞑った。


「そうとは知らずごめんなさい。あと、ありがとうございました」


 ベッドの上で座りながらぺこりと頭を下げる少女に、イクサは腕組みをして頷く。


「つまりここは、イクサ、さんの家?」


 一度だけ首肯。


「イクサでいい」


 言いながらリェリィを見る。恐らくこのとき初めて二人は見つめ合った。彼女の透き通った紅い目はルビーを彷彿とさせた。頭には雪をかぶり、目にはルビー。両方ともイクサには縁遠いものであった。


「あれ……? そう言えば、体は平気なの?」

「いや、頗る快調だ。生まれて初めて快眠ができた。あんな叫び声で起きなければもっと良かったんだがな」


 少女は心底驚いたようにイクサを見ていた。


「僕に一晩中触れていて紡流がなくならないなんて、どういうことなの?」

「俺の紡流は無限だ」


 こともなげに言ってのける。

 イクサにとって無限の紡流は日常的だ。しかしリェリィにとってそれはあまりにも非日常的な科白セリフだった。


「なくならないってこと?」

「無限とはそういう意味だ」


 彼女は呆けたようにただイクサを見つめていた。ルビーの瞳にはイクサのオニキスのような瞳が映っている。

 彼女はにわかに自分の体を触り始める。かなりの後れを取って、自分の体調の変化に気付いたようであった。


「砂が付いてない……」

「そうか」

「目も痒くない!」

「だろうな」

「唇も渇いてない!」

「良かったな」


 彼女の喜びが肩を伝って震えた。リェリィは布切れを投げ捨てイクサに抱き着いた。


「おい。いいのか。お前まだすっぽんぽんだぞ」


 リェリィの掌がイクサの頬を捉え、渇いた音が響いた。

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