第一章【二人の商人】
第一幕 吸取る少女
第001話 砂漠に残る雪
砂の強い日であった。
燃える茜色を背に、イクサは砂漠の上を滑っていた。鉄のソリに乗って。
ソリを引っ張っているのは、身の丈の5倍程の大きさの蜘蛛のような生物——サイフォである。重いものを引いても、その体が砂に沈むことはない。怪力を8か所に分散させ、己が身を無駄なく前進させる。
この調子であれば、陽が暮れる前には家に帰れる。サイフォは陽が沈みきってしまうと動かなくなってしまう。しかし思惑とは逆に、サイフォは減速。合わせてイクサもソリに付いているブレーキを引いた。手綱を放さない様に気を付けながら砂上に降り立った。
風が吹き、前髪がサラと揺れ眉毛を撫ぜた。ロングコートが翻り、一振りの刀が覗く。
油断なく周囲を見回す。だが、その目が突然細められ、苦痛に歪む。頭痛が襲ってきたのだ。この間に強盗に襲われてはかなわない。イクサは原因を究明すべく、急いでサイフォの前に回り込んだ。
そこには雪があった。
記憶にはないが、伝え聞いてはいた。白くてふわふわしたものだということを。まさしくそれが砂の上にあったものだから、実は砂にまみれた子供が横たわっているのだとは気付くことができなかった。雪の正体は白い頭髪だった。
微動だにしない体からはおよそ生気と言えるものは感じられない。
首にはきらりと光るペンダントがあった。太陽のように力強い橙色はサンストーンのようだった。昔、似たような形のペンダントを譲り受けたことがあった。それを自分に渡した男はどこかに行ってしまって消息はわからない。ペンダントを手に入れたところで彼に会えるわけではないが、単純に売り物にはなるだろう。
イクサは近寄り、ペンダントを外そうと子供の首を持った。
するとその瞬間、ガクッと力が抜けるのを感じた。同時に、頭痛が消え去った。
子供に目をやると、頭髪や皮膚に付着していた砂がぱらぱらと落ちていた。
生きている人間ならば、砂やゴミが皮膚や目に付着しないよう、
紡流は、自分専用だ。人に触れたからと言って紡流を相手に授けることはできない。だが今、目の前でそうとしか考えられない事象が起きたのだ。
この子供が持つ特性がそうさせているのかもしれない。
イクサは思案の末、子供を家に連れ帰ることにした。
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