第29話 死神無双
時間は少し遡り、いばらは地面に背中を預けながら真から受け取ったバックを抱きしめ一人ゴブリンたちに向かって歩いていく真を見る。
(ダメ!一人でなんて勝てるわけない)
いばらは体を動かすことが出来ず、声を出すことすら辛い状態だ。
ただ出来るのは真を見ることだけ。そんな真は、一定の場所まで歩くと天井を見つめ出す。
(天井?どうして天井なんか……)
そう思いながらも天井を見つめていると、不意にダンジョンが揺れる。
「何この揺れ、地震!?」
いばらは驚きながらも真を見ると、真はこんな状態にも関わらず笑みを浮かべている。
(真、笑ってる?)
そんな真を見ている間にも揺れはどんどん大きくなり、さらには天井にヒビが入る。
(天井にヒビ!?)
ヒビはどんどんと広がり、ついに天井が割れる。
「うそっ、天井が!?」
いばらは割れた天井を見て驚く。
さらに驚くべきことに、割れた天井からは巨大な機会と共に落ちてきたメイド服を着た銀髪美少女セイラが真の腕の中に納まる。
(え?あの子ってもしかして……)
連続して驚かされることが起きたいばらは呆然と真とセイラを見つめる。
そうして見ているとセイラが辺りを見渡しだし、いばらとセイラの目が合う。
「………」
(何あの子?すっごいこっち見てくるんだけど!?)
二人はしばらく目を合わせていると、セイラがわずかに口角を上げる。
(!?……あの子、すっごくバカにしたように私のこと見てきたんだけど!?)
いばらはセイラを睨むように見るが、セイラはすぐにいばらから目を離し真の方を向き、目を閉じる。
真はそんなセイラに顔を近づけ、二人を唇を重ねる。
「なっ!?」
(…………!?し、真が、あの女と、き、き、キスした!?)
二人のキスを見たいばらはパニックで声にならない叫びを上げる。
「【真価解放】」
そんないばらの気持ちを知らずに真はセイラと【真価解放】を行う。
さらに続けてその手に不思議な青白い光を集わせ【真価武装】のガトリングガンを出現させる。
真はガトリングガンをゴブリンたちに向け、セイラはいばらの元に近寄る。
(え?あの子こっちに近づいてくるんだけど!?)
いばらは動こうにも体に力が入らず自分に近づいてくるセイラを見る。
「あなたがトップ、忍田黒仁の娘、忍田いばらさんですね?」
「え、そうですけど……」
まさか話しかけられるとは思っておらず、いきなりの質問に戸惑いながら返答をする。
「色々と話たいことはあるでしょうが、今からマスターの勇姿を見なければならないので大人しくしていてくださいね」
いばらがセイラの言葉に答える前に、ダンジョン中に金属音が鳴り響いた。
_____________
「さぁ、終わりにしよう」
真は六本あるガトリングの銃口をゴブリンに向け、銃口を回転させる。
ドドドドドドドドドドドドッッッ
ドドドドドドドドドドドドッッッ
毎分数千発の弾丸がゴブリンたちを襲う。
「「「グギャ!?!」」」
ゴブリンたちはそんな弾丸の雨から逃れようと走り回るが、そんな抵抗もむなしく数分にして血の水たまりが出来るほどの数のゴブリンの命を奪う。
それほどの数を倒してもゴブリンは次々と現れる。だが先ほどまでと違い、ガトリングガンという対大数用の兵器をもつ真にとって苦戦をするはずがなく、新しいゴブリンが現れるたびに地面に流れる血の量が増える。
そんな一方的な蹂躙劇を見ているセイラといばら。
セイラは真の戦う姿をうっとりとした目で眺め、いばらは先ほどまで自分が戦い苦戦していただけあり現在の一方的な戦いぶりを驚きの目で見る。
(凄すぎる。さっきまでの私たちの戦いが嘘みたいに一方的に戦ってる……)
「あれが、あなたの真価武装……」
いばらは驚きからか思っていたことが口に出る。それに気づきいばらはすぐに口を押えるが、セイラはそんないばらを見ていないので特に気にせず質問に答える。
「はい。いつものとは違いますが、あれが私とマスターの真価解放です」
「いつもの?」
いばらは疑問に思いながらもセイラが答えないので、自分から聞くことはせずに二人の間で無言が続く。
その間にも真の蹂躙劇は続き、またしてもいばらは疑問が出てくる。
「あの銃、ずっと撃ってるけど弾切れしないの?」
今回の疑問も無視されるか?と思ったいばらだが、セイラは真を見たまま口を開く。
「しませんよ。あの銃弾は異能を使用する時に消費する力、」
「この世界では魔力って呼ばれてるわよ」
「……では魔力と呼びましょう。あの弾丸は私とマスターの魔力を消費して作り出している物です。故に魔力がある限り弾切れはしません。マスターなら魔力を使い切るほど苦戦することもありませんから」
そう話す、いばらは少し自慢げだ。
そんなセイラに対してムッと思いながらも、それ以上何かを言うことはしない。
そうして話していると真の方もラストスパート。ガトリングガンを一通りぶっ放してゴブリンたちを一掃する。
「ふぅー。もう出てきてほしくは無いんだが……」
次のゴブリンの集団がなかなか出てこないことから終わったのか?とわずかに期待する真だが、やはりと言うべきかすぐに三方向から足音が聞こえる。
だがその足音はそれぞれの通路か一体分ずつ。
「なるほど。ボスのお出ましってわけか」
通路から出てきたのは三体のゴブリン。
だがそのどれもが先ほどまでのゴブリンとは違い、一体目は杖とローブを着ている杖ゴブリン。二体目は巨大な体に筋肉質な体を持つ格闘ゴブリン。三体目は二体目より一回り小さい体に鎧と剣を持つ騎士のような恰好をしている騎士ゴブリン。
「まぁとりあえず……」
真は三体のゴブリンを見るとすぐにガトリングガンを全員に向けて放つ。
「——【グウギャ】」
だが放たれた弾丸はゴブリンたちの前でまるで見えない壁があるかのように全て弾かれてしまう。
「なんで!?」
その光景を見ていたいばらが声を上げる。
そのいばらの問いに隣にいるセイラが冷静にゴブリンたちを観察しながら答える。
「……あの杖を持っている魔物のせいですね」
「どういうこと?」
いばらはセイラの指さす杖ゴブリンを見る。
「あの魔物の前に見えない壁でもあるかのように銃弾が弾かれました。その見えない壁が出現する直前にあの魔物が魔力を使ったのを確認しました」
「な、なるほど。それじゃあ真の攻撃は通らないってこと?」
「まさか。マスターならすぐに手を打ちますよ。見ていれば分かります」
セイラの言う通り、真はすでに狙いを杖ゴブリンに定めてガトリングガンを構えている。
「さて、どこまで耐えられる?」
真はガトリングガンを杖ゴブリンに向けてぶっ放す。
ドドドドドドドドドドドドッッッ
「っ!?——【グウギャ】」
だがやはり銃弾はゴブリンの目の前で壁があるかのように全て弾かれてしまう。
「…………」
ドドドドドドドドドドドドッッッ
ドドドドドドドドドドドドッッッ
大量の銃弾が弾かれながらも真はひたすら杖ゴブリンだけを狙い撃つ。
「グッ、グギャ!」
「……………」
ドドドドドドドドドドドドッッッ
ドドドドドドドドドドドドッッッ
真はひたすら無言で、どこか威圧的に杖ゴブリンを狙う。
ドドドドドドドドドドドドッッッ
ドドドドドドドドドドドドッッッ
「グッ、グギャァァ!!?」
そんな銃撃もようやく功をそうし、銃弾を防いでいた透明な壁にヒビが入る。
「………」
ドドドドドドドドドドドドッッッ
ドドドドドドドドドドドドッッッ
「グッ、グギャァ……」
さすがに数千発の銃弾を防ぐの辛いのか、杖ゴブリンが身体を支えるために杖を地面につく。
「!グギャァ!!!」
だがさすがに他の二体のゴブリンが真の考えに気づき、銃撃を止めさせようと真の元に走る。
「……魔物も仲間思いなとこがあるんだな」
真は銃撃の相手を杖ゴブリンから他の二体のゴブリンに変え、ガトリングを向ける。
「グッ?グギャァァ!!」
突然銃撃が止んだことに不思議な顔をした杖ゴブリンだが、すぐに他の二体が狙われていると気づき叫びを上げる。自分の防御に魔力を使いすぎて二体を守る余裕がないのだろう。
そんな杖ゴブリンに向けて二体のゴブリンはサムズアップ。まるで「あとは俺たちに任せろ」とでも言っているようだ。
「グギャァ……グギャ!グギャア」
杖ゴブリンは「お前ら……分かった!あとは任せた」と言うようにサムズアップを返す。
だがその瞬間、
「グギャ!?………」
銃弾が、杖ゴブリンの頭を貫いた。
「「グギャア!?」」
先ほどまで感動的なやり取りをしていた味方がいきなり命を落としたことに、二体は銃弾の出どころ、真を見つめる。
「感動的なことをするのは構わないが、場所や相手はわきまえろよ」
真は拳銃をホルスターにしまう。
先ほどの杖ゴブリンを殺した方法だが、ガトリングを他の二体に向けたことで気が抜けて壁を消した杖ゴブリンに気づかれないよう拳銃をホルスターから抜き、頭を打ち抜いた。
まさしく真の言う通り戦闘中の場所で真を相手にして少年漫画のようなことをしているから殺されたわけだ。
「さて、一番厄介そうな奴を殺したが……」
真は二体に向けてガトリングガンを撃つ。
「「ッ!?」」
そんな銃撃を格闘ゴブリンは横に走って避け、騎士ゴブリンは両手をクロスさせて耐える。
「まぁ簡単にはいかないよな」
真はガトリングガンを放ちながら思考を回す。
(格闘の方は避けられる、騎士の方は防がれる。このままガトリングでいくとして二体とも押し切れないことはなさそうだが、帰りのことを考えるとセイラの魔力は残しておきたい)
真はセイラの開けた天井の穴を見る。その穴は明らかに先ほどよりも狭くなっている。
(となれば、やることは一つだな)
マシンガンが真の手から消滅する。そして真は二体のゴブリンを見たままセイラに声をかける。
「セイラ!」
真はただ一言だけ。だがセイラにはその一言で全てが伝わる。
「イエス。マスター!」
瞬時にセイラは異能によって作り出したナイフを二本、真に向けて投げ、真はそれを見ることなく受け取る。
「よし。まずはお前からだ」
真はナイフを手に馴染ませるように握り、格闘ゴブリンに向き合う。格闘ゴブリンも真の視線に気づき、騎士ゴブリンに何かを言うと、騎士ゴブリンは仕方がないなと言うように距離を取る。
そして真と格闘ゴブリンはお互いに間合いを確かめるように互いを見ながらじりじりと距離を詰める。そして先に動いたのは格闘ゴブリン。
「グガァ!!」
格闘ゴブリンは一気に間合いを詰め、右の拳を突き出す。だが真はその動体視力で完璧に拳を見切り、紙一重の位置で拳を躱す。そのまま右手に持つナイフで心臓部分を突き刺そうとするが、格闘ゴブリンは瞬時に後方へ飛び難を逃れる。
だが真はそんな行動にも対応し、後方へ飛ぶ瞬間に格闘ゴブリンの右腕を左に持つナイフで切りつけた。
「グルッ……」
「………」
切りつけられ血を流す腕を摩りながら忌々しく真を睨む格闘ゴブリン。
そんな格闘ゴブリンを冷静な目で観察する真。
(ナイフの刃は通るみたいだな。こいつもミノタウロス見たく防御力化け物じゃなくてよかった。だがあの巨体でかなりの速度で動くところを見ると拳の威力も相当だろう。これは一発も貰えないな)
二人の無言の間を破ったのは真。
真は先ほどの仕返しというように素早く間合いを詰める。それに驚きならがらも格闘ゴブリンはカウンターを狙うように左の拳を突き出す。
だが真は拳が当たる寸前にダンッと音を立てて跳び、ゴブリンの拳は空を切る。さらに真はそのまま突き出された格闘ゴブリンの拳の上に着地する。
「グギャ!?」
さすがに自分の手の上に乗られるとは思っていなかった格闘ゴブリンは驚きながらも真を掴もうと右手を伸ばす。
真は手の上でさらに跳躍、向かってくる右手を避ける。そしてそのまま真は二本のナイフで格闘ゴブリンの両目を切り裂き、体を蹴って距離を取る。
「グ、グギャァァ!!?!?!」
格闘ゴブリンは必死で両目を押さえる。
そんな完全無防備状態を真が見逃してくれるはずがなく、真はがら空きのゴブリンの体に向かって走り、助走をつけたままナイフを心臓に一突き。
「グッ、ギャァァ……」
格闘ゴブリンは心臓を貫かれたことで血を流しながらその場に倒れる。
真は格闘ゴブリンに触れて確実に死んでいることを確認し、次の標的に目を向ける。
「グ、グルル!」
視線を受けた騎士ゴブリンは犬のようなうなり声を出し、仲間を殺した真を睨む。
「………」
真はそんな視線を受けても冷静に、ナイフに着いた血を振り落しながら騎士ゴブリンを殺す方法を考える。
(やっかいなのはあの鎧。一瞬しか撃ってないとはいえガトリングガンを防いだのは鎧の防御力あっての物だろう。さてどうするか……)
「グルアァ!!」
考えて一向にかかってこない真に痺れを切らし、騎士ゴブリンが襲い掛かる。
騎士ゴブリンは真に近づくと怒っているからか荒々しく剣を振るう。
そんな剣を格闘ゴブリンの時と同じく紙一重で避け続けるが、さすがの真も連続の戦闘で疲れが出たかわずかに服を切られる程度だが剣を受けてしまう。
だが真もやられっぱなしでなく、剣を避けながらも隙が見えればナイフでの攻撃を繰り出す。だが、
「通らないか……」
分かっていたことであるがナイフは鎧に阻まれて刃が通らない。
(鎧でナイフが通らない以上、鎧が無い顔か関節を狙うしかない。が、荒々しく剣筋が読みにくい相手に狙った攻撃をするのはリスクが高いな)
真は向かってくる剣を避け、時にはナイフで受け流して攻撃を防ぐ。だが防がれるたびに騎士ゴブリンの怒りは増し、剣の荒々しさと威力が増す。
(このまま戦闘を長引かせるのは色々まずいな……仕方ない。セイラ、もう少し力を借りるぞ)
真はセイラからの真価解放の強化を強め、振り下ろされる剣をナイフで弾く。
「グギャ!?」
驚く騎士ゴブリンは一瞬驚いたがすぐに怒りの表情に戻り体勢を整えようとする。だが真にはその一瞬の隙があれば十分。真はナイフを捨てて騎士ゴブリンの懐に潜り込み、拳を放つ。
「借りるよ父さん。『振撃拳・
「グッ!?……ギャアァァァ!?………」
真の放った拳は騎士ゴブリンの鎧を通り越し、中にいるゴブリンに衝撃を与える。
拳の衝撃を外装を貫通し内部に与える真の父、鬼神と恐れられた開化拳一の技『振撃拳・内』。
月影最強と恐れられた鬼神の技を、異能により強化した死神の拳で使った。それだけで騎士ゴブリンが死ぬ理由には十分だろう。
(
真は全ての敵が死んだことを確認し、セイラといばらの元に歩いた。
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