第28話 セイラと再会


(セイラ視点)


「さすがはマスターのご両親、なかなかに破天荒ですね」


「『はい。まさしくあるじのご両親と言ったお話でしたね。ありがとうございました姉川殿』」


 セイラとロウガは姉川から真の両親である拳一と創香の話を聞き、「さすがはマスター(主)のご両親!」と二人を絶賛していた。


「なんというか、二人の方がさすがというか、真くんの周りの子はみんな真くんのこと大好きだよね」


 話をした本人である姉川は予想していた反応と違ったから、というよりも予想をしていた反応だったからこそ驚くよりもどこか納得したような表情で二人を見る。


 そうしていると姉川の持つ端末にメールが届く。差出人は空。内容は真の居場所が判明したとのことだ。


「二人とも。真くんの場所が分かった、って戻るの速っ!?」


 セイラとロウガは姉川から真の名前が出た時点で車に向かって走っていた。

 そんな二人を追いかけ、姉川も車に戻った。



 __________


 全員を乗せた車は真の元に向かって走り出した。


「それでマスターはどこに?」


「あぁ………今端末に送った」


 ナビよりも自分の端末で見た方が分かりやすいという親切心、ではなく運転中にナビをいじられたくないゆえに空は全員の端末に真の位置を転送した。

 すぐに端末を確認するセイラを横目に、姉川は端末を確認しながら空に話しかける。


「セイラちゃんたちの言う通りの方向だね」


「そうですね。あれ真の異能の効果なんでしたっけ?」


「そうらしいね。二人とも突然走り出すからビックリしたよ」


 姉川は後ろでそわそわと端末を確認している二人を見て微笑む。

 そうして話していると、車は平野から森に入った。


「ここから先は森に入ります」


「森、って言っても元の世界と違って道が整備されてるわけじゃないし、車で通れるの?」


「確かにこのままだと通れませんね。通れたとしてもかなり時間がかかります」


 空の時間がかかるという言葉に、セイラとロウガが反応する。


「それなら私たちだけでも走って先に行きますが?」


「いや、待て。策はあるから、絶対に待て」


 すぐにでも飛び出しそうなセイラとロウガを空は必死になって止める。


「いくら真が近くにいると言え異世界での別行動は危険だ。それに車の方が速く真の元までたどり着ける」


 空の丁寧な説明により、二人は納得し座りなおす。


「『それで空殿。策というのは?』」


「あぁ、すぐにやるから少し待ってろ。えぇっとこのレバーを……」


 空は分厚い社用車マニュアルを取り出すと、パラパラとページをめくりながらレバーやボタンをガチャガチャと操作する。


「よし。これで、どうだ!」


 空は様々な操作の末最後にハンドルの右に付けられたボタンを押す。すると車内に無機質な音声が流れる。


『コード認証確認。走行モードⅡに変形します』


 その音声と共に車の前部が変形し、巨大な回転刃が現れる。


「へ、変形した……」


 セイラはあまりの突然の出来事に珍しく驚き言葉を失っている。


「『この変形。もしかして先ほど姉川殿が話してくれたものでは?』」


「お、ロウガくん鋭いね。その通り、この車の変形システムはトップたちが入手した情報から作り出した物だよ。私も実際に見るのは初めてだったけど」


 車の変形システムは、かつて真の両親である拳一、創香、そして月影トップの黒仁が敵対していた組織から盗ん……入手してきた情報を元に技術開発部が作り出した物だ。


「よし、行くぞ!」


 空は回転刃を勢いよく回転させ、アクセルを踏み込む。回転刃は目の前の木を根元から切断し、道を切り開く。

 そのままの勢いで車は進み、数十分の後に真の反応がする場所に着いた。




 __________


「ここがマスターのいる場所ですか」


 車から降りた四人の目の前には、真っ暗で先の見えない洞窟がある。


「とりあえず入ってみるか」


 さすがに車が入るほどの大きさは無いので、車をすぐ近くに停めて洞窟の中に入る。


「外からは見えませんでしたが、中に入ると意外に明るいんですね」


「『ここが異世界の洞窟。……なんだか嫌な感覚がします』」


 セイラを先頭にし空と姉川、最後尾をロウガという順で洞窟の中を進む。

 異世界の洞窟ということで警戒をしながら進むと、セイラが突然足を止める。


「この下に、マスターが居ます」


「下って、この地面の下ってこと?」


 セイラは地面を見ながら姉川の言葉に頷く。

 そして腰からナイフを取り出して振りかぶる、


「ちょっ!?セイラちゃん何を……」


 セイラはそ姉川の言葉を待たずにナイフを地面に向けて振り下ろす。


「……さすがにナイフでの破壊は無理ですね」


 セイラの振るったナイフは地面に突き刺さることなく刃が折れる。


「【形状変換】」


 セイラは刃と持ち手を異能を使って元通りに直し、腰のホルスターに戻す。


「セイラちゃんさ……まぁいいや。それで、下に真くんが居るとして、どうしようか?」


 どう真の元に向かうかと頭を悩ませると、空が思い出したように口を開く。


「そういえば、真の位置を調べている最中に物資の確認をしてたんですが、そこに「地下用」という袋があったんですよね」


「地下用?……よく分からないけど、多分トップが入れてくれた物だと思うし、トップならこんな状況を予想してても不思議じゃないのかな?」


 結局他の方法も思いつかないということで、空とロウガが車から「地下用」とメモの張られた袋を持ってきた。


「とりあえず中身を取り出しますか」


 空は袋を開ける。まず最初に出てきたのは袋の中身に関しての説明書。


「姉川さん。これお願いします」


「はーい、了解」


 空はメンバーの中で機械に関して一番適任である姉川に説明書を渡し、袋の中身を取り出す。中からは何かのパーツと思われる様々な部品が出てくる。

 そして最後の部品を取り出し終わる。


「これで最後ですね。それで、これは何なんですか?」


「……えぇっとね、簡単に言うとこれは「穴掘り機」だね。セイラちゃん専用の」


「専用ですか?」


 姉川はセイラの言葉に頷き、いくつかある部品の一部を手に取りセイラに手渡す。


「見て分かると思うけど、この部品はねじ穴もなければ部品と部品を繋ぐような凹凸おうとつになってる部分ももない。つまりセイラちゃんの異能でしか組み立てられないんだよ」


「なるほど。では早速組み立てていきましょう。姉川さん、これはどこを繋げればいいですか?」


 セイラは姉川の指示に従いながら、穴掘り機を組み立てる。

 そして出来上がったのは二メートル以上の大きさで先端にドリルが付いている巨大な機会。


「これが穴掘り機。いくら月影とはいえこんなものを用意してるとは……」


 空は驚きと呆れが混ざったような声を出しながら穴掘り機を見る。


「ほんとにね。もしかしてだけど、他にも似たような袋があったり?」


「それ、俺も気になって少し確認したんですが、「空中用」や「水中用」とかもありましたよ」


「……それには何が入ってるんだろうね」


 空と姉川は互いにため息をつく。そんな二人を横に、セイラとロウガは穴掘り機の充電完了を待つ。


「ようやくマスターに会えますね」


「『はい。ですが主はかなり下の方に居ます。我々はともかく空殿や姉川殿はここから下に降りるのは危険なのでは?』」


「確かにそうですね………」


 セイラは黙ったまま空と姉川を見る。

 そんな視線に気づいた二人は考える素振りをし、空が口を開く。


「ロウガの言う通りだな。俺と姉川さんはここで待って二人で地下に行くか?」


 セイラは空の言葉を受けてロウガを見る。そんなロウガは首を横に振る。


「『いえ、我もここで待ちましょう。この洞窟に入ってからどうにも奇妙な感覚がします。なので一応ですが我もお二人と共に待ち、主はセイラ殿にお任せします』」


「ロウガ……。分かりました。マスターのことは任せてください」


 話し合いが終わると共に、穴掘り機の充電が完了した。

 三人は距離を取り、セイラは穴掘り機に手を添えると取り付けられたドリルが回転を始める。


「ではマスターを取り戻しに行ってきます」


 三人が自分の言葉に頷いたのを見ると、穴掘り機は地面を砕きセイラは穴掘り機と共に地下に降りた。






 ____________


「また地面ですか。【形状変換】」


 セイラは三人がいた場所からいくつかの地面を貫き、真のいる場所まで向かっていた。ただその間にドリルが欠けたり形状が変わってしまったりするのでそのたびに異能で元の形に戻している。


(あと少し、もう少しでマスターの元にたどり着ける!マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター、マスター)


「マスター-!!!」


 セイラの叫びと共に地面は割れ、その先には腕を広げて自分を見ている真の姿がある。


「セイラ!」


 真はセイラをお姫様抱っこで受け止める。


「マスター、マスター、マスター!!」


 セイラは真の胸に顔を埋め、これまで会えなかった間を埋めるように強く真を抱きしめる。

 真はそんなセイラを強く抱きしめ返しながら、セイラを腕から降ろし地面に立たせる。


「悪かったなセイラ、心配かけた。ただ再会を喜ぶのは後で。今少しピンチでな、力を貸して欲しいんだが」


 セイラは真の言葉を聞くと顔を上げ、辺りを見回す。その目に映るのは自分たちを囲んでいる緑色の小鬼と疲れて座り込んでいるいばら。


「………」


「……?……!?」


 そんないばらと一瞬目が合うとセイラは口角をわずかに上げる。

 それを見たいばらは睨むようにセイラを見るが、セイラはすぐに表情を戻し真の眼を見る。


「分かりました。ではマスター……」


 セイラは目を閉じて真を待つ。

 真はそんなセイラに顔を近づけ、唇を重ねる。


「ん、ん~。ますたぁ~」


「ん……これくらいでいいか?」


 真が唇を離すと、セイラは目を開けて唇に手を当てる。


「はい。正直に言えばもっとしたいですが……そう言っている場合ではなさそうですからね。マスター、いつでもどうぞ!」


「あぁ、いくぞセイラ!【真価解放】」


 真が唱えた瞬間、真とセイラの体を不思議な青白い光が包み込む。


「今回は量が多いからな、武装は殲滅で頼む」


「イエスマスター」


 セイラは強く頷き了承する。


「それとそこで疲れ切ってるいばらのことも頼む。さっきまで真価解放を使ってからな。かなり消耗してる」


「……イエスマスター」


 セイラは一瞬いばらを見ながら了承しいばらの元に向かう。

 そんなセイラを見ながら真は天井に向けて手を伸ばす。


「【真価武装】」


 真が唱えると共に青白い光が真の手に集い、光は黒く輝く六本の銃身を持つガトリングガンを形どる。

 真はガトリングガンを握りしめる。


「さぁ、終わりにしよう」


 その銃口をゴブリンたちに向けた。

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