第25話 鬼神と狂科学者と不死者のビル攻略

 拳一と黒仁、そして創香は指定されたビルに向かった。


「ここが指定のポイントか。見た目は普通のビルだな」


「そうだね見た目は。とりあえず入ろうか」


「そうだな」


「はーい」


 拳一と創香は黒仁の後ろにまわりる。


「あの、二人ともなんで僕が先頭なのかな?」


「そりゃあ、肉壁役なんだから当然だろ?」


「だから兄さん言い方!」


「大丈夫。死ななければどうにかするから!」


「ありがとう義姉さん。けど怪我を負う前にどうにかしてほしいな!」


 そんなやり取りをしながら、三人はビルの中に入った。



 _______


「このビル、外から見たときはかなり高かったが何階まであるんだ?」


 ビルに入った途端、拳一が聞く。

 その言葉に黒仁はポケットから端末を取り出し、見取り図を出して伝える。


「えぇっと、二十階だね。データがあるのも最上階らしいよ。ただ各階層にトラップが仕掛けられてるらしいけど」


「なるほどな。……止まれ」


 先頭を歩いていた拳一が、後ろを歩く二人を手でジェスチャーを出して止まらせる。


「あれがトラップってやつか?」


 二人は拳一の後ろから覗くように廊下の方を見ると、数台のロボットが廊下を移動している。


「あれは警備用ロボットだね。あれ系の専門は……」


 拳一と黒仁は創香を見る。

 そんな創香はしばらく警備用ロボットを観察し、口を開く。


「見た目だけだと普通のロボットだけど、ただの警備用って感じじゃないね。たぶん機体の中に武器とか仕込まれてるよ」


 創香の冷静な分析を聞き、黒仁は納得したように頷き、拳一は血まみれの手袋をはめた拳を鳴らす。


「だから見つからないように進むのが良いと思うけど、……拳一くんなんでクラウチングスタートの姿勢してるの?」


 創香の言うように、拳一は膝と手を床に着き、クラウチングスタートの姿勢を取る。


「いちいち避けて通るの面倒だからな。全部壊した方が楽だろ?」


「え?ちょっと、待っ…」


 創香の静止を聞かずに、ロボットに向かって走りだす。

 ロボットたちはそんな拳一の姿をとらえ、ピピピ!と警告音のような音を出す。


 拳一はそんな警告音を関係ないというように無視してさらにロボットに近づくと、ついに警告音が止み、その機体の中から銃身が出てくる。


「おっ、本当に銃が出てきたな!」


 銃を目にして焦るどころか楽しそうに笑う拳一。

 そんな拳一を狙うように銃身が向き、大量の弾丸が放たれる。


 だが拳一は一切の慌てた素振りを見せず、走りながら跳躍をする。

 そのまま壁を蹴って銃弾を避けながらロボットに近づくと、拳を振るい破壊する。


「意外ともろいな」


 拳一は超人的な身体能力と動体視力で銃弾を避けながら、全てのロボットを拳一つで破壊する。


「よし。終わったぞ」


 破壊を終えた拳一の元に二人は歩いていく。


「あのさぁ拳一君。なんでわざわざ突っ込んで行っちゃうのかな?」


「ん?そんなの隠れながら通るより、壊して堂々と進む方が楽だからだけど?」


 創香はそんな拳一の言葉を聞き、頭かかえる。そんな創香に黒仁はアドバイスをする。


「義姉さん。兄さんのあれは治らない病気だから、気にしない方が楽だよ」


 そんなアドバイスになっていないようなアドバイスを聞き、創香はさらに頭を痛めるのだった。





 _________


「結局拳一くんが全部壊して進んできちゃったね」


 三人はロボットが徘徊する一階を抜け、二階への階段を上っている。


「このビル。わざわざ階段の位置を階ごとにずらしてるのか。面倒だな」


「そうだね。まぁそれも僕らみたいな侵入者対策なんだろうけど。さて二階についたわけだけど……」


 階段を上った先には、厳重そうな扉が立ちふさがっている。


「この扉、特にロックされてるわけじゃなさそうだけど……」


「通れるなら通るしかないだろ。何かあれば壊せばいいだけだしな」


 そんな脳筋な拳一考えにあきれながら、三人は扉の先に進む。


 厳重な扉の先は、一階と変わらない普通のビルの中といった感じだ。

 だが三人が入った途端、壁や天井といたるところから煙が噴出される。


「これは……毒か!?」


「だね。一度戻ろう」


 すぐに三人は鼻と口を押さえ、煙を吸い込まないようにし、階段まで戻る。


「まさか二階のトラップが毒ガスとはな……」


 拳一は「さすがに毒ガスは壊せないな」とため息をつく。

 そんな拳一に、創香が「そういえば……」と持ってきていたショルダーバックをごそごそとあさる。


「これ、ガスマスク。一応三つ入れてきたんだよね」


「お前、準備がいいな。……でもそのバックにどうやって入ってたんだ?」


 拳一は見た目が薄っぺらいバックを見て首をかしげる。


「あぁ、このバックはうちの部長の試作品なんだけど、部長曰くバックの中身の空間を膨張させることで見た目よりも多くの物を入れることが出来るんだって」


 創香の説明に、拳一と黒仁は興味深そうに頷く。


「なるほど。研究開発部の部長、聞いていはいたけどすごい人だね」


「部長ねぇ、そこそこ長く月影やってるけど見たことないな。お前らは会ったことあるのか?」


 拳一の質問に、黒仁、さらには創香すらも首を横に振る。


「おいおい、月影トップ補佐の黒仁も知らないのか。創香の方は直属の上司だろ?なんで会ったことないんだよ?」


「部長からは設計図だけ送られてくるから。ほんとに実際には会ったことないんだよ。試作品とかも全部郵送だし、私たちがいる支部とは別の場所に居るとか?黒仁くんは部長について何か知らないの?」


 創香の質問に黒仁はしばらく考え、口を開く。


「そうだなぁ、僕が知ってるのは部長さんが女性ってことと、世界連合に保護されてるってことかな」


「世界連合!?まじか、部長そんな大物なのかよ……」


 世界連合とは、世界中の全ての国が加盟している組織だ。

 この世界連合は、世間一般で周知されている国際連合とは違い、裏で活動する一般人では知りえない組織。


 その活動内容は世界のバランスを保つこと、そして軍事兵器や世界を揺るがすほどの情報などの管理だ。


 世界連合は、様々な国のトップが在籍している。だがその在籍している誰もが一般的に知られている国の首相ではなく、普通なら知りもしえない裏の人間が代表を務めている。


 そしてこの世界連合で重要なのが、あくまで組織の内容は世界のバランスを保つことということだ。

 それはつまり、軍事兵器を開発したり重大な秘密を得た国には、たとえ自国であっても、それらを無慈悲に排除や回収しなければならない。

 そしてこれらの任務を世界連合は裏組織でトップクラスの実力を持つ月影に依頼している。


 そんな世界連合に保護されているというだけで、部長が世界にとてつもなく大きな影響を与える人であることが分かる。


「さて、休憩もこのくらいにしてそろそろ行こうか」


 三人はガスマスクを着けて、再び二階に向かった。


「よし。ガスマスクのおかげで楽に進めるな」


 二階は毒ガスの影響で視界が少し悪くなっているが、それ以外には警備ロボットや他のトラップなども無く三階に繋がる階段まであと半分というところまで来た。


 だがその瞬間、


「っ!?避けろ!」


 天井から銃があらわれ、三人を狙って銃弾が撃たれる。

 黒仁は銃を見てすぐに射程外まで逃げ、拳一は創香をかばうように避ける。


 すばやい行動で三人にダメージは無かった。だが、


「くそっ、まじか……」


 逃げた先の天井からも銃が現れ、三人を狙う。

 さすがにその銃撃は完全に防ぎきれず、拳一と黒仁は多少のダメージを受け、さらに三人のガスマスクが壊されてしまった。

 一応三人は月影の訓練で毒に耐性があるとはいえ、毒ガスが充満した部屋に長時間いるのはさすがに厳しい。


「っ、黒仁!」


「あぁ、兄さんは義姉さんを連れて戻って!あとは僕がやっておく!」


 拳一は黒仁の言葉に頷き、創香を抱きかかえて階段まで戻った。


「はぁ、はぁ。ありがとう拳一くん」


「気にするな。それよりも、解毒剤持ってきてるか?」


「えぇっと、ちょっと待ってね」


 創香はバックの中から注射を二本とりだす。


「はい解毒剤」


「サンキュ。はぁ~、ひさびさに焦ったな」


 拳一は腕に注射を打ち、階段に座り込む。


「まさか途中で攻撃がしてくるとは、なかなか性格が悪いよな」


「そうだね。……それよりもさ、黒仁くん戻ってきてないけど大丈夫なの?」


 創香は心配そうに扉を見る。


「黒仁なら先に行ったぞ」


「え?マスク壊れたのに!?」


 ガスマスクが壊れて使えない状態であの毒ガスが充満した部屋の中を進む。そんな自殺行為をさも当然のようにやっていると聞き、創香は思わず声をあげる。


「あぁ、たぶんそろそろ……来たな」


 拳一が扉を見ると、ゆっくりと扉が開く。そしてそこから、黒仁が出てくる。


「おつかれ黒仁。毒ガスはどうだ?」


「止めてきたよ。二階の奥の部屋に制御室があったからね。それより義姉さんの方は怪我とか大丈夫?」


 毒ガスの充満した部屋を平気で奥まで進みながら、自分の心配をする黒仁に創香は声を出せずにただ頷く。そして数秒後に思い出したようにバックから解毒剤を取り出す。


「これ、解毒剤!黒仁くん無理し過ぎじゃない!?」


 慌てながら解毒剤を渡そうとするが、黒仁は受け取ろうとしない。


「大丈夫だよ。それと解毒剤は僕にはいらないよ。僕には効かないからね」


「え、効かない?」


 黒仁の言葉に創香は先ほどから何度目かの?を浮かべる。

 そんな創香をに拳一が口を出す。


「黒仁は俺とは違うベクトルで特殊だからな。お前も聞いてことくらいはあるだろ?月影黒仁、またの名を『不死者』」


『不死者』

 黒仁がそう呼ばれるのは、黒仁の特殊な体に秘密がある。


 そもそも拳一と黒仁は現月影トップである月影零にその才能を見出されて養子として引き取られた。


 拳一の才能はこれまでの戦闘から分かる通り圧倒的な戦闘センスと身体能力を生かした戦闘能力。

 その戦闘能力は他者の追随を許さず、『鬼神』という二つ名を与えられるほどだ。

 彼一人が居れば小さな組織程度なら潰せるほどの強力な人材だ。特に裏の世界で行動する月影だからこそ、そういった純粋な力というのは重要になってくる。


 そんな暴力の化身である拳一の弟である黒仁は、特に戦いが出来るわけでもなく、かといって技術開発部の部長や創香ほどの知識や知恵なども持ち合わせてはいない。


 では黒仁の才能がなんなのかというと、それは人外レベルの頑丈さだ。その頑丈さというのは体の強度であり、精神的な強さという意味でもある。

 ではなぜその頑丈さが月影トップが気に入るほどの物なのかというと、それはやはり月影が裏組織であることが理由だ。


 月影の任務の中には潜入調査というものがある。潜入調査は敵の組織に潜入して機密情報を入手するという任務だ。

 この潜入調査はかなりリスクの高い任務であり、仮に月影からのスパイであることがばれれば尋問を受けたのちに殺されることもあるだろう。


 ここでポイントなのが、尋問というワードだ。

 裏の世界で生きている以上、自分の組織のことはもちろん他にも数多くの情報を得ることがある。

 尋問ではそんな情報を吐き出させようと、口にするのもはばかれるようなことをされる。

 そんな尋問に対して裏の人間は訓練を積みある程度は耐えることが出来る。だが耐えきれず話してしまう者や、話す前に自害しようとする者もいる。


 そんな中、黒仁は生まれつきの才能で痛みや毒対する耐性がある。さらに訓練を積むことにより、ほとんどの毒は効かなくなり、さらに痛みを自分の意志で感じなくすることが出来るようになった。

 持ち前の体の頑丈さで普通の攻撃は効かず、攻撃が効いても痛みを感じず、毒すらも通じない。

 そんな人外の頑丈さを持つからこそ、黒仁は『不死者』と呼ばれているのだ。


「昔に黒仁をわざと敵に捕まえさせてアジトの場所を暴いたことがあったよな」


「そうだね。あの時の尋問は結構きつかったよ」


 笑って昔話をする二人を見て、あきれるように創香はため息をつく。


「まさか黒仁くんの二つ名がそんな理由でつけられたものとはね。でも一応薬は打った方がいいんじゃ……」


「いやいいよ。僕の体は毒だけじゃなくて薬の効果も効かないから」


 毒と薬は表裏一体。毒は時に薬にもなる。それはつまり毒が効かない黒仁には薬も効かないということだ。


「なるほどね。その体も万能じゃないってことか」


 そうして話している内に二階に充満した毒ガスが霧散し、三人は先に進んだ。


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