異世界に全てを奪われた俺は裏世界の異能力者(エージェント)
影束ライト
第一章 異能力者と異世界転移
第1話 月影異能部隊
「はぁっ、はぁっ」
真っ暗な路地裏。
唯一、月明りのみが照らすその場所で、一人の男が息を上げながら必死に走っている。その男はとある裏組織のボス。
「はぁ、はぁっ。なんとか、逃げ切れたか……」
男は路地裏を抜けた先の、開けた場所で息を整える。
だがそんな安堵も束の間、二つの人影が男に近づく。
「マスター、標的を発見しました」
「了解。……ったくあいつら面倒な場所に誘導しやがって」
男が走ってきたのと同じ方向から、月明りに照らされて二つの人影が男に近づく。その人影の正体は一組の男女。
相方をマスターと呼んだのは、銀髪碧眼、高校生ほどの年齢の無表情の美少女。彼女の名前はセイラ=レーショウ。
そんな少女が真っ暗な路地裏に居るだけで奇妙だが、その少女がメイド服を着て、両手にナイフを持っているのだから、出会った者は奇妙を通り越して恐怖を抱くだろう。
そして少女からマスターと呼ばれた少年、名前は
目元まで伸びた黒髪に黒い眼。少女と同じく年齢は高校生ほど、と言うよりもどこかの高校の制服を着ており、その手には拳銃を持っている。
男は突然現れた二人に驚いていたが、相手が高校生ほどの子供だと分かるとすぐに冷静さを取り戻す。
「くっ、くくく。お前らのような子供がこの俺、『
男は笑みを浮かべながら手を挙げると、近くの路地から黒い服を着た男たちがぞろぞろと出てくる。
そんな男たちを見て、真とセイラはため息を吐く。
「はぁ~。ほんっと、あいつら使えないな。誘導したはずがこっちが誘導されていたとは」
「まったくですね。この任務が終わったらトップに報告しましょう」
会話をしているうちに二人は黒服たちに囲まれる。
そんな傍目から見てもピンチな状況にも関わらず、二人は愚痴をこぼすほどの余裕を見せる。
「マスター。この量は面倒です。アレをやりましょう」
セイラはナイフを後腰のホルスターにしまい、真の方に体を向けて両手を広げる。
「……そうだな。お前がいいなら」
真も銃を腰のホルダーに収める。
そしてセイラを抱きしめ、二人は唇を重ねる。
「ん、ん〜。ますたぁ、」
「ん。んんっ」
シリアスで戦闘開始一秒前の状況。にも関わらずいきなりのキス。さらにそのキスがどんどんと激しくなっていく。
突然そんな物を見せつけられている黒豹たちは困惑する。
「お、お前ら。いったい何を?」
黒豹は目の前の相手が敵だということも忘れて「本当に何やってんだ?」という気持ちで質問する。だが激しいキスを交わす二人の耳にはまったく届いていない。
「ますたぁ、ますたぁ~」
「……ん。ぷはっ!」
やがて二人は満足したのか離れる。するとセイラが頬を紅潮させて自分の体を抱きしめる。
「……きました、昂ってきました。マスター!」
「ああ、いくぞ。【真価解放】」
真はセイラに手を向けて叫ぶ。
すると真の手から発せられた不思議な青白い光が二人に纏わりつく。
さらに真は上空に手を伸ばす。
「こい。【真価武装】」
すると二人が纏っている物と同じ青白い光が二人の手の中に収束し、真の光は大鎌に、セイラの光は二本のナイフに形を変える。
「さぁ、始めるぞ」
「イエス。マスター!」
暗闇の中、黒服たちに囲まれた二人の持つ大鎌とナイフが月明りを反射した。
_____________________
「はぁっ!」
「ぐはっ!?」
「せいっ!」
「ぐほっ!?」
一方的。
二人が黒服たちを相手に戦う姿はまさく一方的だった。
二人が武器を振るうたびに黒服たちが次々と倒れていく。
「くっそ!お前ら、手加減なんて考えるな!本気で殺せ!!」
黒豹の命令を受け、二人を子供と侮って手を抜いていた黒服たちは懐から拳銃を取り出し二人に向けて発砲する。
「マスター。私が対処します」
そう言いながらセイラはナイフを構えながら真の前に出る。
そして目の前に迫る弾丸を目で捉え、
「はぁぁっ!」
常人をはるかに超える速度でナイフを振るい、弾丸を切り裂いた。
「ナイスだセイラ。あとは俺が……!」
真もまた常人を超える身体能力と速度で黒服たちに近づき大鎌を振るう。すると外傷無く、一瞬で黒服たちが意識を失い倒れていく。
「くそっ、こいつらいったい何なんだ!?」
黒服たちは不思議な力を使う二人に圧倒され、叫びながら倒れていく。
黒豹はそんな二人を見て、裏世界でのとある噂を思い出す。
(そういえば聞いたことがある。裏世界最大の組織、『月影』に不思議な力を使う二人の子供がいると)
黒豹は凶悪な大鎌を振るう真を見る。
(一人は巨大な鎌を持つ少年。語る者曰く、
「その者を子供と侮るな。見た目は少年、だがその目にはどんな暗闇よりも暗く深い「闇」を宿している。その目を見てしまった者の中で無事だった者はいない。目に宿す闇とまるで魂を刈り取るように大鎌を振るい、外傷なく敵の意識を刈り取ることから、その少年についた二つ名は月影の『死神』)
次に黒豹は真の隣で銃弾を切り裂くセイラを見る。
(そしてその死神に付き従うメイド服を着た銀髪の少女。語る者曰く、
「死神に付き従うメイド。メイドは物質を自在に変化させ死神に武器を手渡す姿は正しく死神のメイド。死神の隣に立つにふさわしい力を持つ少女こそ死神の相棒。二つ名は死神の『
「マジで何なんだよっ!?」
あっという間に真とセイラは全ての黒服を倒し終える。その場に立つのは死神と冥土、そして黒豹のみ。
(まさか本当にこんな子供が?だったら運が悪すぎるだろ!)
「くそっ!」
黒豹は月影の中でも最強の一角である二人と戦うことになったことに悪態をつきながら、懐から拳銃を取り出し二人に銃口を向ける。
そんな黒豹を見て真はセイラに対し冷静に一言。
「セイラ!」
「イエス。マスター」
セイラはスカートをめくり、太ももに括り付けていた金属板を取り出す。
「【形状変換】」
セイラが金属板を握り言葉を唱えると、金属板の形が板から数本の細長い金属の棒へと変化する。
セイラは全ての金属棒を数ミリの狂いなく、黒豹の拳銃に投げ刺す。
「なっ、馬鹿な!?」
黒豹はすぐさま使い物にならなくなった拳銃を捨てて逃げようとする。
だが、
「逃がすか!」
「ぐほっ!?」
真は一瞬で黒豹に近づき、黒豹の腹に拳を叩き込む。
「ぐはっ!?俺も、ここまでか……お前ら、何者だ……」
黒豹はその場に倒れ込み意識を朦朧とさせながらも、いつの間にか真の側に立っているセイラと真に名を尋ねる。
「あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺たちは──」
真は大鎌を肩に構え、セイラは真の一歩後ろでナイフを腰にしまう。
「『月影』異能部隊、隊長『死神』」
「同じく異能部隊副隊長『冥土』」
真は闇を宿した目で、セイラは冷たい眼を黒豹に向ける。
(本物かよ。ったく相手が伝説の二人とは、俺の最後にしては豪華すぎるな)
二人の名乗りを聞いた黒豹は納得した表情で意識を落とした。
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