ハエルヌンによる春(7)

 初夏七月。

 鹿しゅうかんの跡地に薔薇園[執政府]を移築した。その資金を薔薇園はラウザドから借りた。

 ラウザドに出向いた際、サレがオルベルタ[・ローレイル]に「少なくとも倍にして返してもらえよ」と言うと、彼は「いえいえ、十二分にもうけさせていただいておりますから」と手を振った。

「まあ、儲け過ぎもよくないからな。私も、さいきん気をつけなければならないと常々思っている。本当だぞ」

 そのようにサレが口を開くと、一瞬、お互い真顔になった後に、ふたりで笑いあった。


 塩賊が退治され、塩田の操業と塩の運搬に支障がなくなると、ようやく、塩券えんけんの値が、前の大公[ムゲリ・スラザーラ]存命中に見劣りしない額にまで戻った。それには、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]の治世に入ったことも大きく作用していたことだろう。

 この値段で売るのならば、父ヘイリプのさまよう魂が荒ぶることもあるまいと、サレは塩券を渡すことで、オルベルタに負っていた借金を帳消しにした。

 ようやく金に縛られる生活が終わって、サレは晴れ晴れとした気分になり、持病の胃痛も少し良くなった。

 そして、隠居をさらに強く願うようになった(※1)



※1 そして、隠居をさらに強く願うようになった

 後年、ホアラの整備に加えて、ウストリレ進攻問題で金が必要になると、サレは金に困る暮らしを常に送った。

 このきゅうぼうが、長子オイルタンをウストリレ進攻推進派にくみさせた要因のひとつと考えられている。

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