ハエルヌンによる春(6)

 晩春六月。

 サレが南衛なんえいかんいていた時代以来のことであったが、都にて銅銭を大規模にちゅうぞうすることが決定した。

 執政官[トオドジエ・コルネイア]からサレは助言を求められ、次のように答えた。

「前回は、文字の読めない平民たちの使いやすさを優先して、じゃせん(※1)を複製したが、今回は近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]の手によって、七州の混乱が収まったことを祝す意味を込めて、新しい意匠でつくるべきだろう」

 サレの意見が妥当であったので、銅銭は、表側に現国主[ダイアネ・デウアルト五十六世]の幼い横顔、裏側に月をつかんだてんちょうと九〇八の数字が刻まれたものになった(※2)。


※1 蛇銭

 表側に三十一代目国主の横顔、裏側に蛇を掴んだ天鳥と三八一の数字が刻まれている、通称「蛇銭」は、たびたび大量にられており、サレが関わったのは四回目の鋳造であった。


※2 裏側に月を掴んだ天鳥と九〇八の数字が刻まれたものになった

 この通称「げっせん」は大量につくられ、平民の生活を大いに助けた。

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