ハエルヌンによる春(2)
公から所望されたので、茶を用意していたサレに対して、公が一振りの刀を見せてきた。
「我らが国家の
という言葉とともに、摂政[ジヴァ・デウアルト]から拝領した刀とのことであった。
「ずいぶんときらびやかな刀ですな」とサレが言うと、「どれくらい価値のある
サレは刀を抜き、一通り眺めてから、二三回振ってみた。
「
「私には似合わんな。
「……たしかに」
刀をながめながら、しばし考え込んだあと、近北公が口にした。
「東南公[タリストン・グブリエラ]から、妾腹の男子ではなく、ザユリイ・ムイレ=レセとの間にできた長女を、後継者に定めたい
「その件については、ご本人からお聞きしました」
そのようにサレが答えると、近北公は少し目つきを厳しいものにした。
「仲直りしたのか。それはいいことだ……。それはともかく、後継者の話などのような、東南州の自治に関する事柄について、私がとやかく言う筋合いはない」
「東南公を
「相変わらず、東南公は求心力がないな。しかし、その件について、私が言葉を与えるというのは、やはり、東南州の自治の観点から好ましくない。東南公と私は、あくまでも同格なのだからな。しかし、この内乱で彼は微々たるものしか得ていない。できれば要望に応えてやりたいのだが……」
「あなたさまではなく、執政官が同意を与えるというのはどうでしょうか。それならば先例もあるでしょう」
「それも微妙だな……。他州に対する執政官の権限をどれくらいに収めるかというのは、これかの大きな課題だ」
刀の話がどこかへ行ってしまったので、サレは困惑した。
いつも結論から話そうとし、それを他人にも求める近北公らしくない物言いに、サレは彼が何かを決めあぐねているのを察した。そして、気がついた。
「あなたさまは、東南公のご息女に、鳥籠[宮廷]から拝領した刀を差し上げたいのでは?」
「……それならば、私が直接的な
「鳥籠からの拝領品を、他家へすぐに与えてよいものなのかをお悩みなのですか?」
「……その通りだ」
近北公の物言いが少し気になったサレが「何か他に?」とたずねると、「いや、なにもない」と答えが返って来た。
サレは茶を
「それでしたら、物の言いようでどうにでもなるように思われますが……。[オルネステ・]モドゥラに問題がないか聞いておきましょう」
「そうか。それならば、ホアラ候にあとは任せる。うまく進めてくれ」
モドゥラに照会したところ、
拝領品の下げ渡しに、いつものように今の大公[スザレ・マウロ]が噛みつき、その中で「不法にも七州を専断する、真の国の
※1 刀は「国仇」と呼ばれるようになった
「国仇」はのちに、グブリエラ家当主の
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