いっそ、うつくしく(6)

 晩秋十二月。

 上京する近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]がホアラに入った。

 滞在の間の宿として、自宅を明け渡す際、サレは家族を集めて、近北公にあいさつをさせた。

 「候のところはいいな。にぎやかで」とサレの末娘を抱きながら近北公が言ったので、「万事、公のおかげであります」とサレは世辞を口にした。

 すると、「人はそれぞれの役割があり、得られるものもちがうということか」と近北公が独りごちた。


 近北公は酒をやめていたので、サレが茶でもてなしていると、ライーズ・サレがやって来て、公女[ハランシスク・スラザーラ]が近北公に話があるということであった。

 サレが近北公を彼女の屋敷へ案内すると、公女が、近北公とふたりで話したいというので、サレは退席した。


 公女の書斎から出て来た近北公より、公女が都に戻りたがっているむねの話があり、彼がそれを受け入れたことを、サレは聞かされた。一切事前の相談がなかったので、サレはひどく動揺した。

「あの方なりに、ゆっくりと時間をかけて考えて、候をご自身から解放してやろうとお考えになったのではないかな。何を考えているのか分からないお方だが、この見立てはどうだろうか……。しかし、候もそのような顔をするのだな。まあいい。薔薇園[執政府]は鹿しゅうかんに移すから(※1)、都の良い土地にあの方の屋敷を建てて、そこに、彼女が姉としたう前の東州公[エレーニ・ゴレアーナ]も住まわせよう。そこで、ふたり仲良く生きて行けばいい。まわりの喧騒けんそうから離れた、静けさに満ちた場所で、本を読んであの方は生きて行く。それもまた、一つの生き方だよ」

 微笑しながら近北公がそのように言った。



※1 薔薇園[執政府]は鹿集館の跡地に移すから(※1)

 ハエルヌンらは、執政府がてんきゅう(宮廷)の近くにあるのを嫌い、廃墟と化していた鹿集館を取り壊し、その跡地に新しい執政府を造る計画を立てていた。

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