いっそ、うつくしく(5)

 [オルネステ・]モドゥラ、執政官、サレの協議の結果、鳥籠[宮廷]へ強硬策を講じても、いまの状況ならば、都の世論を抑え込めると判断して、やりたいように事を進めることに決めた。

 まず、西南州が毎年行っていた貢納の額を削減し、鳥籠へ揺さぶりをかけた。

 鳥籠が拒むかと思ったが、流れていたうわさを気にしたのか(※1)、その時していた調査の具合を心配したのか(※2)、抵抗らしい抵抗は見せなかった。

 これは大きい話であったので、念のため、事前に近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]の意向を聞いておいた。公は非常に乗り気で「水源を断てば、怪魚も暴れようがなかろう」と言った(※3)。


 鳥籠とのやりとりにおいて、執政官とサレは、いつかモドゥラを鳥籠の中へ戻したいと考えていたので、汚い仕事はなるべく、サレが引き受けた。

 別に執政官がやってもかまわなかったが、彼は性格的にその手の仕事を好まなかったし、また、苦手でもあった。

 このためかどうかわからないが、サレが都でせわしく働いていると、「サレの側近政治」と都人が騒ぎ立てた。

 しかし、サレは、金に汚いと言われる以外の悪口はとくに気にしなかった。

 公が納得する形に都を変えてしまえば、それでサレの役割は終わりで、コステラに来ることもなくなるだろうと考えていた(※4)。



※1 流れていたうわさを気にしたのか

 この時期、ハエルヌンに、国主の座をデウアルト家から取り上げて、ハアリウ家へ移す意向があるという流言が都をめぐっていた。

 サレらがうわさを流したとする史家もいるが、ハエルヌンに発覚すればしっせきだけではすまなかったので、その可能性は低いと考えられる。負う危険に対して得るものが少なすぎた。

 サレらは流言を否定することなく、活用しただけであろう。


※2 その時していた調査の具合を心配したのか

 サレらは宮廷の保有する領地について、その所有権に瑕疵かしがないか、徹底的な調査を実施していた。宮廷の弱みを握るためである。


※3 「水源を断てば、怪魚も暴れようがなかろう」と言った

 怪魚は、ジヴァ・デウアルトを指すか。


※4 都に来ることもなくなるだろうと考えていた

 ウストリレ進攻問題が深刻化すると、サレはホアラよりも、コステラやスグレサにいる時間の方が長くなった。

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