いっそ、うつくしく(4)

 いちばんのねんである塩賊が退治されたので、執政官[トオドジエ・コルネイア]は都のまつりごとに精を出した(※1)。西南せいなんしゅう取次役とりつぎやくのサレを巻き込んでおけば、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]の口出しも減ると思ったのか、何かにつけて、彼に執政官は相談をもちかけた。


 まず、金回りを立て直さなければならなかったので、執政官、サレ、オルベルタ[・ローレイル]の三人で、都の特権商人のうち、自分たちの意に沿う者たちだけを残し、あとは理由をつけて排除した。

 都の商売に関しては、万事、ラウザドの意向を尊重することで、立て直しと繁栄を図ったのだった。

 また、オルベルタに関所の再編を指示し、取るべき税を確実に得ることで、税収の安定を目指した。


 いくさごとについては、西南州の軍事的な無力化を狙う公から、兵力を削減する指図が出ていたので、バージェ候[ホアビウ・オンデルサン]やせいとうの意見を踏まえ、正規兵や傭兵ようへいの整理を行った。

 暇を出された兵たちが余計なことをしないように、彼らを旧勢力の鎮撫の済んでいない遠西えんせいしゅうに送り込み、兵として生活のかてを得させることにした。

 この処置に、りょうさいどの[ウベラ・ガスムン]やラール・レコは、反乱の発生などを危惧したが、いくさに飽き、政に興味を失っていた公は相手にしなかった。「ハオンセク親子なら大丈夫だろうし、その時はその時だ」とのことであった。


 都の政を改善するうえで、鳥籠[宮廷]への薔薇園[執政府]の統制を強める必要性を執政官とサレは痛感していた。また、いちおう、公からも、それにからむ指示が出ていた。

 そのための良い人材がいないか検討した結果、[オルネステ・]モドゥラがよいのではないかという話になった。


 サレが近北州に出向き、州都スグレサでちっきょしていたモドゥラを都へ戻してくれるように願い出ると、「誰だったかな。役に立つのか?」と公が言ったので、サレは「ばけものの巣を掃除するのに、それなりには」と応じた。

 すると、「あれらはそのようなたいしたものではないよ。やつらは壁蝨だにだ。一匹でも多く壁蝨を潰せ……。まあ、いい。おまえが責任を持つのなら、好きにしろ」とのことであった(※2)。



※1 執政官[トオドジエ・コルネイア]は都の政に精を出した(※1)

 「ハエルヌンによる春」と呼ばれた支配体制の特徴は、独裁者であるハエルヌンの権限が法的に担保されていない点にあった。彼がしゅうぎょかん(大公たいこう)にくのを拒んだためである。彼の独裁は、彼個人の権威に基づいて行われた。

 ハエルヌンを含めて、各州のしゅうぎょ使は法的に平等であり、国事は執政官がハエルヌンの意向を踏まえ、代弁者として取り仕切った。ハエルヌンからの、宮廷、執政府、各州への命令は、法的根拠を持たず、「要請」「相談」の形を取った。

 ハエルヌンは近北州の州都スグレサを七州の首都にすることもなく、西南州のコステラの機能をそのまま残した。また、各州の自治を尊重した。

 このために、「長い内乱」期をて、その権限を都周辺に縮小していた執政官職は、「長い内乱」以前の、西南州と都に対して有していた本来の権限を託されることになった。

 従前の有名無実化していた執政官職では与えられていなかった権力を手にして、コルネイアは大いに張り切って政務をこなしていたのである。


※2 とのことであった

 ハエルヌンの決定により、モドゥラの復帰が決まった。

 その後、モドゥラ、コルネイア、オンデルサン、ローレイルの四人で、コステラの政治をぎゅうったので、彼らはコステラにんしゅうと呼ばれた。

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