いっそ、うつくしく(3)

 西南州と東南州の、しゅうさかいにあるとりでこもったルンシ[・サルヴィ]は、もはやこれまで、これ以上、森の民に迷惑をかけては自らの名誉にかかわると思ったのか、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]にきょうじゅんを申し出てきた。

 鳥籠[朝廷]や薔薇園[執政府]ではなく、公のなまえを出したのが、ルンシという男の狡猾なところであった。

 公に服従しようとする者を勝手に殺しては、サレが彼からしっせきを受ける可能性があり、サレとしては、それは避けたいところであった。

 結果、お互いに人質を出して休戦を約したうえで、公に早馬を出し、恭順の可否を仰ぐことになった。

 公はルンシの服従を喜び、すべての武器を捨てることを条件に、財貨を保護したうえで、遠西えんせいしゅうサントリに領地を与えることを約した。そこに塩賊を連れて行き、田畑を耕せという話であった。ハオンセク父子にオントニア[オルシャンドラ・ダウロン]、それにルンシと、遠西州はまるで、公のごみ箱であった(※1)。


 上のような甘い裁定になったのは、ポウラ一派の乱の際、塩賊はポウラにくみしたが、ルンシ自身は消極的ながら反対の立場を取っていたのが幸いしたようだった。

 もちろん、サレは塩賊の根絶やしを訴えたが、次のように執政官[トオドジエ・コルネイア]が彼をなだめた。

「きみのやろうとしていることは切りがないよ。政治が乱れれば、いくらでも塩賊は出てくる。草を燃やしてもまた生えてくるように、人もまた増えていく」


 サレが書いたぼくの約定書は、執政官とルンシの間で交わされた。

 裏書うらがきには摂政[ジヴァ・デウアルト]をはじめとして、錚々そうそうたる者たちが署名した。

 ルンシは、サレの裏書を強く求めたが、思うところのあった彼は、それを拒否した。しかし、ルンシに「花丘はなおか」を与えて、もはや戦意のないことを示した。



※1 公のごみ箱であった

 言い得て妙であり、本回顧録の中でもっとも知られている文言である。

 ダウロンに与えられたアヴァレはサントリに接しており、ハエルヌンとしては、ダウロンにサントリを監視させる腹積もりであったが、そのような能力は彼にはなく、アヴァレとサントリの境界線は、遠西州の火薬庫となった。

 なお、コステラの統治上、目障りとなりつつあったため、コルネイアから弾圧されていた異教徒の多くが、塩賊の残党と一緒にサントリへ向かうと、サルヴィはこころよく彼らを受け入れた。サントリで彼らのしゅうに変容と混合が起きて生まれたのが、とうきょうである。

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