第二章

いっそ、うつくしく(1)

 盛夏八月十八日、前のバージェ候[ガーグ・オンデルサン]がきゅうしたので、サレらはあんした。


 近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]の命により、サレは執政官[トオドジエ・コルネイア]と都であるコステラの統治方法を検討していた。

 その中で、ラウザドのオルベルタ[・ローレイル]が財務を、今のバージェ候[ホアビウ・オンデルサン]が軍務を担い、その統括を執政官が行うのがよいのではないかと結論づけた。

 今のバージェ候は、西南州の兵たちに強い影響力を持っていた、せいとうとの仲が良好だったので、彼が適任だと思ったのだが、公の考えはちがい、まえぐんかんどの[オヴァルテン・マウロ]をけたいようだった。

 しかしながら、前の軍務監どのは、そのとき、青衣党の中で微妙な立ち位置にいたので、サレらには不都合があるように思われた。

 なにより、サレらには、公が今のバージェ候を都のまつりごとに参加させたくない本当の理由がわかっていた。

 近西きんせいしゅうのライリエにちっきょさせた、彼の父親であるガーグをまだ許していなかったのだ。その未だに解けぬ怒りの矛先が息子のホアビウに向いているだけだった。


 公の気分屋のところが出て、サレらは難渋していたのだが、折よく、前のバージェ候が少数の従者に看取みとられながら死んでくれたので(※1)、サレらの希望通り、今のバージェ候に、都の軍務をゆだねることができるようになった。


 公よりきんぼういっぽんが、サレから執政官を経由して鳥籠[宮廷]へ届けられ、鳥籠からのという形で、オンデルサン家へ送られた。

 その金を使って、葬儀は盛大に行われたが、後難をおそれたのか、どの州もしゅうぎょ使はおろか、重職にある者で参列した者はいなかった。

 それを聞いたサレは、華やかだが中身がないというのは、前のバージェ候の事暦にはふさわしくないと思い、また、どこで彼はまちがえたのだろうかと考えを巡らせた。

 ガーグ・オンデルサンの死により、前の時代の人間は、公以外消え去ってしまった。



※1 前のバージェ候が少数の従者に看取られながら死んでくれたので

 ガーグはたびたび、ハエルヌンに対して、バージェ領への帰郷を願う書状を出していたが、それは開封されることなく、すべて破棄されていた。

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