いくさのあと (6)

 盛冬二月。

 ホアラがサレの領地になることについて、[タリストン・]グブリエラと話し合わなければならないことがあった。

 東南州の州都パント=ダルガデにサレが出向くのが筋であったが、一度、ホアラを見てみたいとグブリエラが言ったので、サレはホアラに彼を出迎えた。


 奥方[ザユリイ・ムイレ=レセ]を失ったばかりのグブリエラは、ずいぶんと穏やかな人物になっていた。

「娘のために、東南を美しい州にしたい。それだけが、私に残されたゆいいつの野心だよ、ホアラ候」

僭越せんえつながら、東南公は、わたくしと同じ夢をお持ちなのですね」

「そうか、夢だな、夢。野心ではなく……」

 オーグ[・ラーゾ]から渡された約定書におうを書き終えると、グブリエラは椅子から立ち上がり、サレに近づいた。

「前は言いそびれたが、ここホアラの件ではわるいことをした」

「いえ。それほど気にはしていません。民草にとっては、あなたのほうが望ましいあるじだった」

「しかし、候の名をきずつけた」

「あの時の私の名誉は、それ以上傷つきようがありませんでしたから、あまりお気になさらずに」

「……ふたりとも、どうにか生き残った。これからはお互い、身を慎む必要がある」

 ずうずうしい感情であったが、サレはグブリエラに友愛の情のようなものを感じて、しばらくの間、楽しく酒をわした。

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