いくさのあと (4)

 新暦九〇七年初冬一月。

 正月の祝いの場にポドレ・ハラグが出て来なかったので、従者を家にやると、彼は刺殺されていた。

 ハラグの遺体の横で茫然としていた奥方が犯人であった。

 犯行の理由は、ハラグの暴力に耐えかねてということだったので、サレが取り調べ中に彼女の服を脱がすと、青あざだらけであった。

 ハラグの元々の気性から、そのようなことをする男には見えなかった。おそらく、サレが彼にむりをさせた結果、このような痛ましい出来事が起きたのだろう。ハラグや奥方に罪がなかったわけではないが、いちばん悪かったのはサレであった。

 サレは自身を深く恥じ入った。

 そして、昨年のラシウ[・ホランク]につづく、身近な者の死によって、深い虚無感に襲われ、サレはさらに隠居の念を強くした。

 サレは、奥方を病死ということにして、オルベルタ[・ローレイル]宛ての書状をもたせ、ひそかにラウザドへ旅立たせた。

 そのとき、サレは奥方に「あなたの罪は軽い。しかし、あなたをここに置いておくわけにもいかない」と言った。奥方は始終無言で暗い顔をしていた。


 サレは何事もよく、ハラグに相談して、事を決めていたので、しばらくの間、ずいぶんと苦労した。

 後任の家宰にえたオーグ[・ラーゾ]が、思いもせぬほどよく働いてくれたので、政務に大きな支障は起きなかった。

 しかし、ハラグの死により、半身を失った感覚は、ついぞ抜けなかった。


 ポウラの乱や西征せいせい勲功くんこうにより、近西きんせいしゅうと東部州ではめでたいことがあった。

 近西州では、家臣州民たちの悲願であった、ケイカ・ノテのしゅうぎょ使ちゃくにんが認められた(※1)。

 一方、東部州は自治権の一部を回復したうえで、エレーニ[・ゴレアーナ]どのの長子オンジェラの州馭使就任が決まった。


 近北公[ハエルヌン・スラザーラ]のもたらしつつある春の世に(※2)、人々が酔いしれる中、サレ一人だけが取り残された心持ちであった。



※1 ケイカ・ノテの州馭使着任が認められた

 近西州の州都クスカイサでの生活を気に入っていたウリアセ・タイシェイレは、宮廷には戻らず、後見人のひとりとして、若いケイカを補佐する道を選んだ。彼は「前の近西公」として、ときおり話の長さにうんざりとされながらも、上から下まで、近西州人の尊崇そんすうを集め、当地で死んだ。


※2 近北公[ハエルヌン・スラザーラ]のもたらしつつある春の世に

 内乱を収めたハエルヌンにより、七州が統治された時代のことを「ハエルヌンによる春」というのは、このしょがゆらいである。

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