いくさのあと (3)

 七月に遠北えんほくしゅうの片がつくと、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]の目は、遠西えんせいしゅうに向けられた。

 遠西州の混迷が極まっていたのを好機と判断した公は、連合軍を編成して、[第三だいさん]西せいせいを開始し、十一月、州都ツマーロをほぼ無血で手中におさめた(※1)。


 サレは遠征に駆り出されなかったが、公のたっての願いを受けて、オントニア[オルシャンドラ・ダウロン]と騎兵を貸し出した。

 オントニアは要地アヴァレの攻略に大功を立て、そのまま領地として与えられた。

 捨て子が一躍、アヴァレ候になったわけである。しかし、オントニアの武名はウストリレやとうの国々にまで鳴り響いていたので、この人事に不満を持つ者はサレぐらいであった。


 これで、公は名実ともに前の大公[ムゲリ・スラザーラ]の後継者になったわけだが、大公たいこう[しゅうぎょかん]にはならなかった。

 中には、このままウストリレに攻め込むことを望んだ者もいただろうが、ポウラ一派の件があったので、表立って口にする者は皆無だった。この時点では。


 ある薔薇園[執政府]の老高官が次のように言っていたが、サレもそのとおりだと思った。

「最初から機が熟するのを待っていれば、老公ろうこう[コイア・ノテ]が変を起こすこともなく、犬死する者も少なくて済んだのに。一部のせんりょな人間のせいで、いつも多くのまともな人間が損をさせられる。人間の世というのは、本当にいやらしい」



※1 州都ツマーロをほぼ無血で手中におさめた

 連合軍には各州の兵が加わったが(主力は近西きんせいしゅう。他州はそれぞれの事情で、大規模の軍を送れる状況になかった)、難所には、西南州のホアビウ・オンデルサンと東部州のウデミーラ・ハオンセクを当てるように、ハエルヌンから総司令官を務めたロアナルデ・バアニに指示があった。

 ホアビウは父ガーグに対するハエルヌンの怒りが収まっておらず、貧乏くじを引かされた格好であった。

 対して、ハオンセクは、ロスビンの戦いやハアルクン(ポウラ)の乱における行動を、自らスグレサに出向いて弁明させられるなど、厳しい立場にあり、ハエルヌンに対して忠誠心を見せなければならない立場にあった。

 ふたりは十分な戦果を挙げたが、とくにハオンセク父子は、めざましい活躍をして、すでに知られていた名声をさらに高めた。

 結果を聞いたハエルヌンは、モルシア・サネ宛ての書状にて、以下の言葉を残している。

「ハアティム領にあの父子と兵士がいるから問題が起きるのであって、戦死すれば上等、兵を減らせばおんと思っておりましたが、当てが外れました。しかし、おかげですんなりと遠西州に安定をもたらすことができましたので、あの父子についてはまた別の対応を考えたいと思っております」

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