そして、沈黙(3)

 一月二十二日。

 ざんしゅの前に、サレはばんちょうどの[ルウラ・ハアルクン]と話す機会を得た。

「あなたさまはわたくしの兄に似ておられます」

「あなたの兄上とは一度、くつわを並べてみたかった」

「一度しかない生。私の兄もどうせ死ぬのならば、あなたさまのような最後を迎えたかったでしょうな」

 サレがそのように口にすると、万騎長どのは、「ありがとう。私に対して、それ以上の誉め言葉はないよ」と頭を下げた。

 そして言った。

「あなたの兄上と私を分けたのは、おそらく、星の巡りあわせだけだったのだろうね」


 サレが献上した刀を手に(※1)、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]が万騎長どのに近づいた。

 りょうさいどの[ウベラ・ガスムン]が何か言いたげであったが、それを公が制した。

 正装の万騎長の前には、彼の首を包むための、最高級の敷物がしかれていた。

 しばらくの間、じっと万騎長どのを見つめていた公が、忠臣であった男に声をかけた。

「人にはちょうどよい死に時というものがある。きょうをもって、万騎長の人生は完結する。近北州随一のいくさ人として、輝かしい戦歴を身にまといつつ、悲劇の将として美しく生涯を終える。ひとつの理想の生き方だな……。きみには、長い間、助けてもらったな。今となっては、感謝の念しかない。今日までよく仕えてくれた。万騎長ルウラ・ハアルクン、お別れだ」

 公の言葉に、万騎長どのは次のように答えた。

「今日までのお引き立ての数々、臣も公には感謝の言葉しかありません。臣がゆいいつ仕えたお方、臣がゆいいつ恐れたお方……。近北公ハエルヌン・スラザーラ、さようなら。いつまでもお元気で」



※1 サレが献上した刀を手に

 「万人殺」のこと。

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