そして、沈黙(2)

 新暦九〇六年初冬一月十五日。

 きゅうの中で生きたばんちょうどの[ルウラ・ハアルクン]が罪人として死ぬため、残党狩り中の西せいどの[オリーニェ・ウブレイヤ]の軍へ出頭した。

 西右どのは、ハアルクンどのを万騎長としてぐうし、その帯刀を許した。実に立派な行いであった。

 西せいどの[ザケ・ラミ]の暗殺への関与について「私は知らない」と万騎長どのが答えると、それ以上追及することもなかった。


 近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]のもとへ引き立てられた万騎長どのは、自らの命の代わりに将兵のいのちいをした。

 公は、従軍した兵に対しては約束したが、将については明言しなかった。それに対して万騎長どのは、無言の微笑で返した。


 ばんちょうばくの報を聞いた北州公[ロナーテ・ハアリウ]は、サレに筆記させた書状を近北公に送った。

 口頭にて、サレから内容を聞いた近北公は、書状を受け取らなかった(※1)。


 いくさびとという生き物のことがわかっていないりょうさいどの[ウベラ・ガスムン]が、「側近たちはともかく、万騎長は生かすべきである。西左がいない今、ルウラ・ハアルクンという置き物が、近北州には必要だ」と助命を進言した。

 それに対して近北公は、「世の中にはいくさの中でしか生きられない者もいる。肉食獣に草をめと言っても、それはせんないことだ」と言い、献策を退しりぞけた。

 近北公は万騎長どのの身分を剥奪はくだつせず、その処遇をもって刑に処すことにした。

 貴人として遇するため、近北公は首つりを勧めたが、万騎長はサレによる斬首を望んだ。近北公はそれをよしとした。



※1 書状を受け取らなかった

 内容はハアルクンの助命嘆願。なお、この書状が書人ノルセン・サレの最高傑作とされている。

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