沈黙、そして(3)

「ハエルヌンどの、いけませんな。禁酒をするのではなかったのですか?」

 ほほ笑みながらそのように言った北州公[ロナーテ・ハアリウ]に対して、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]はばつが悪そうに、円卓の上座を譲った。

 近北公の手によって椅子に坐った北州公が、状況をたずねたので、りょうさいどの[ウベラ・ガスムン]が説明した。

「ルウラ・ハアルクンは逆賊です。これを、しゅうぎょ使として討つのが、あなたの役目では?」

 近北公の心情をおもんぱかって、両宰どのたちはそのなまえを出さないでいたが、北州公ははっきりとばんちょうの名を口にした。

「万騎長はわるくないのです。側近のポウラ・サウゾが……」

 そのように子供じみたことを近北公が言ったが、北州公は相手にしなかった。

「それを止められなかったルウラがわるい」

 しばらくの沈黙の後、慌てた口調で、両宰どのが北州公に願い出た。

「万騎長たちには万騎長たちの言い分というものがあり、それを聞いてやりたいと思います。お上に和議のあっせんをお願いできませんでしょうか?」

「和議……。刀を手にして立った以上、もう、そのような話をする時は過ぎているのではありませんか。そのようなことがわからぬ両宰でもあるまい」

 そのように口にした北州公に対して、「僭越せんえつながら」と両宰どのが再度口を開いた。

「マルトレこう[テモ・ムイレ=レセ]とほく[クルロサ・ルイセ]が、あちら側に回った以上、こちらに勝ち目は薄く、長いいくさとなった場合、民草へ与える被害も甚大じんだいなものになります」

「ルウラが州馭使となり、テモやクルロサが支える近北州が民草を幸せにすると、両宰は考えるのか?」

 そのように言われてしまうと、「しかし、手の打ちようが」と言った切り、両宰どのは黙り込んでしまった。

 長い沈黙が執務室をおおったのち、ふたたび、北州公が口を開いた。

はたから見た限りでも、マルトレ侯はだめでしょうが、北左をこちら側へ戻すことは可能なのではないですか。彼の心情を理解できるお方が、彼に寄り添い、帰順を促すのです。そうすれば、可能性はあります」

 「そのような者が近北州にいるのでしょうか?」と近北公が疑問を口にしたところ、北州公は初めてサレと目を合わせて、「近北公と両宰よ。二人の前に、先ほどからいらっしゃるではないか」と微笑と共に答えた。

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