どれほどの土地が人にはいるのか(10)

 北州公[ロナーテ・ハアリウ]の屋敷へと続く道で、サレの一行はハアルクン一派の使者たちとばったり出くわした。

 場所が場所だったので、お互い刀こそ抜かなかったがにらっていると、屋敷から若い女官が出てきて、両者をいっかつした。

 これを良い機会に、ハアルクン一派の者たちは場を去って行った。

 我々をいさめた女官に案内されて、サレは北州公のもとへ出向いた。その女官は北州公の妾で、のちに次の北州公を産んだ。


 ポウラ[・サウゾ]は、北州公を挙兵の旗頭に立てようとしたが、「私は一切、政治には関わりません。なぜなら、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]が望んでいないからです。日々の生活にも困る私を助けてくれたのは近北公です。私はあの方と共に生き、あの方と共に死にます。それが私の恩返しです」と拒絶したとのことだった。


 サレは北州公に睡蓮館へ避難するように願い出たが、公はサレにいじわるをして、すんなりと首を縦に振ってくれなかった。

 近北公の命令もあり、サレが戸惑っていると、「私はあなたのかたにとても興味があります。この変事の片がついてからで結構です。あなたのこれまでの事歴を回顧録にまとめていただけませんか。書いていただけるのならば、睡蓮館へ参りましょう。約束いただけぬのならば、館へは参りません」と脅された。

 サレは急いでいたから、それがどれほど面倒なことかはよく考えずに、二つ返事で回顧録の執筆を引き受けてしまった。

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