どれほどの土地が人にはいるのか(6)

 サレもいろいろと工作をして、不穏な空気のただよう近北州には近寄らないようにしていた。サレもばかではなかったのだ。

 しかしながら、非常に間のわるいことに、西南せいなんしゅう取次役とりつぎやくの権能を利用して、勢力を拡大させつつあった塩賊に圧力をかけようしたところ、ルンシ[・サルヴィ]が近北公[ハエルヌン・スラザーラ]に泣きつき、その弁明のために十月五日までに北上せよとの厳命が下った。

 公もお忙しいだろうからと、事後報告で事を進めようとしたのがまずかった(※1)。



※1 事後報告で事を進めようとしたのがまずかった

 近北州が混乱している状況なのだから、おとなしくホアラの行政に専念していればよかったものを、サレはなにを考えたのか、塩賊を刺激する行動を独断で取った。

 ハアルクン一派への対応で手一杯であった中、寝ている子を起こすようなことをされたので、ハエルヌンだけでなく、ウベラ・ガスムンの機嫌まで悪くなった。

 この件を受けて、「ノルセン・サレは賢い男だが、どういうわけか、塩賊がからむと途端に頭が回らなくなる」という、後世に残る有名なサレ評をガスムンが残している(塩賊の代わりにウストリレを当てはめる者もいるが、そのような発言をガスムンが言った記録はない)。

 この回顧録からもわかるとおり、サレという人間はきわめて複雑な人間であるが、その評価のかぎとなるのは、「生理的な嫌悪感」という言葉かもしれない。

 生理的な嫌悪感を何かに抱いてしまうと、理性や損得勘定が飛んでしまうところがサレにはあった。

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