七巻(九〇四年一月~九〇六年七月)

第一章

どれほどの土地が人にはいるのか(1)

 新暦九〇四年盛冬二月。

 各州からの人質が、近北きんほくしゅうの州都スグレサにやってきた。

 人質はほぼ、りょうさいどの[ウベラ・ガスムン]のもくろみどおりに集まったが、きん西せいしゅうのケイカ・ノテと東部州のホラビウ・ハオンセクは来なかった。

 ケイカ・ノテは、近西公[ウリアセ・タイシェイレ]がスグレサを訪れて、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]に直談判じかだんぱんをして取りやめとなった。

 ケイカ・ノテは若いながらに、すでに政務の一部を見ており、また、スグレサへ人質に出すことで、家臣や州民にいらぬ心配を与えることになりかねない。

 そのようなことを近西公がお得意の長広舌でまくてたので、近北公は辟易へきえきとしてしまい、「あなたさまのような貴族がおられるとはおもわなかった」とめているのかけなしているのか分からない言葉を与えて、訴えを受け入れた。

 対して、ホラビウ・ハオンセクの方は、父ウデミーラが自身の病気を理由に、ホラビウに政務を補佐してもらう必要があるとして、拒否した。

 近北公はそこそこげんを損ねて、「ならば、この際、ホラビウどのに当主の座を譲られてはどうだ」と使者に迫った。

 使者は検討いたしますと言い、話をハアティムに持ち帰ったが、ウデミーラの隠居の話はうやむやのまま、とうとうホラビウを人質に出さなかった。

 近北公の周りでは、すわ、ハアティム攻めかと緊張が走った。しかし、ハアティムが遠かったからか、いくさに飽いていたのかはわからないが、近北公は行動を起こさなかった。この時は。


 ハアティムではもう一波乱ありそうであったが、ハオンセク家の保有する兵数はたかが知れており、なにかあったとしても、火の粉を振り払うのは[モルシア・]サネおうと[タリストン・]グブリエラの仕事であり、サレの出番はないように思われた。

 また、遠北えんほくしゅう遠西えんせいしゅう、それに塩賊も、近北公の威光の前におとなしくしていたので、しばらくの間、サレはホアラの行政に専念することができた。

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