地にうずもれて(6)

 盛秋十一月。

 オアンデルスン[・ゴレアーナ]も死に、東部州に関する仕置きも片がついたので、鳥籠[宮廷]への報告のため、近北公[ハエルヌン・スラザーラ] は入京した。


 その際、今の大公[スザレ・マウロ]が近北公に会見を申し込んで来た。近北公は薔薇園[執政府]の離れで会うことにして、警固のために、サレへ同席を求めた。

 大公が予想通り、しゅうぎょかん退任たいにんの意向を示したが、近北公は次のように断った。

「単なる、そう、単なる名誉職なのですから、気張る必要はありません。まったく、これっぽっちも。お元気なうちは、続けられるのがよろしかろう」

 会見後、近北公がサレに、「汚物をさらに醜く見せるにはどうすればいいか」とたずねて来た。サレが答えにきゅうしていると、「飾り立てるのさ」と近北公は応じた(※1)。


 ちょうどよい機会だったので、サレはオヴァルテン[・マウロ]どのを近北公へ引き合わせた。公はオヴァルテンどのの人となりを気にいった。

「都の警固に関して、執政官[トオドジエ・コルネイア]どのを助けてやってくれ」

と近北公が言ったので、オヴァルテンどのは困った顔をした。

 無言で助け舟を求められたサレだったが、それを拒否して、「まさか、近北公の願いを無下にはしませんよね」と言葉をかけた。

 それに対して、近北公が「どの口が言う」とめずらしく声を立てて笑った。



※1 「飾り立てるのさ」と近北公は応じた

 州馭監の有名無実化、ムゲリ・スラザーラの着任より前の状況に戻すためには、マウロに職を続けされたほうがよいと、ハエルヌンは判断したと考えらえる。

 「州のことは州に」を基本的な政治信条としていたハエルヌンにとって、軍事面で七州を統括する州馭監という役職は不要なものに思えていたのだろう。マウロが退けば、ハエルヌンをその職にけようとする動きが出ることは必定であり、それを牽制するためにも、マウロの退任を許さなかったと思われる。

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