地にうずもれて(4)
晩夏九月。
東南州の州都パント=ダルガデで、連合軍に対する東部州の降服に関して、正式な調印が行われ、サレも使節団に加わった(※1)。
近北公[ハエルヌン・スラザーラ]が[タリストン・]グブリエラに花を持たせた格好だったが、彼の不首尾に対する嫌味に見えなくもなかった。
東州公[エレーニ・ゴレアーナ]はいくさへの関与を否定され、死刑を免れた。彼女と多少の付き合いがあり、七州に必要な人材だと思っていたサレは胸をなでおろした。また、東州公が処刑されれば、東部州で暴動が起き、その後の統治もうまく行かなかっただろう。
しかしながら、上官としてのオアンデルスン[・ゴレアーナ]に対する監督不十分が問題視され、東州公には二十五年の
二十五年という歳月は長く、期間の短縮を求める声が東部州から上がり、サレにも高官から有力な平民まで、さまざまな者が嘆願に訪れたが、近北公の決定を受け入れるように
もちろん、しゃしゃり出て、また近北公に嫌な顔をされるのが嫌だったこともあるが、変に突いて、公の気が変わるのを恐れたためである(※2)。
サレから見て、
とくに軍事面において、東部州の力をそぐために、近北公からオアンデルスン一派と目された将兵に対しては厳しい処罰が課されたが、それは当然の仕置きであったろう。
州の統治は、名目上、ゾオジ・ゴレアーナに委ねられたが、実務は補佐監に任じられた[モルシア・]サネ
隠居を願い出ていた翁は、年齢を理由に再三断ったが、「なにも東部州に骨をうずめろとは言っていない。落ち着けば近北州に帰してやるし、隠居も認めてやる。じいさんしか人がいないのだから、行ってこい」と近北公に説得されたとのこと。
※1 サレも使節団に加わった
正しくは、執政府に対して、東部州は降服した。
執政府側の代表は、ルウラ・ハアルクンの推薦で、彼の側近であり、ロスビンの戦いで大功を立てたポウラ・サウゾが務めた。しかし、彼は武人であり、名誉を与えるために椅子へ坐らせられただけで、実際の交渉はサネを中心に行われた。
対して、東部州側の代表は、ゾオジ・ゴレアーナが指名された。
※2 公の気が変わるのを恐れたためである
晩年のサレは、自らのこの判断を深く
二十五年という蟄居期間は、エレーニの余命から逆算されたものであった可能性が高いが、真相は不明である。しかし、この年数がウストリレ進攻問題において、きわめて重要な意味をもった。
進攻問題を巡る
これに反対する推進派との駆け引きは
そのような中で、サレは体を弱らせていき、新しい反対派の指導者となりうるエレーニの復帰を切望する中、九二四年に死ぬ。
そして、ノルセン・サレにとって皮肉としか言いようがないのだが、九二八年に訪れるエレーニの復権が、推進派(その中心で動いていたのは長子オイルタンだった)に事を急がせ、九二五年のウストリレ進攻へとつながった。
※3 概ね妥当な条件で降服の交渉は進んだので
降服の条件は、東部州が考えるよりも受け入れやすいものだったとされる。
以下に項目を列挙する。
一、エレーニの
二、エレーニの長子オンジェラについては、近北州スグレサにて身柄を預かる。
三、州馭使については、当分の間、空位とする。代理はゾオジ・ゴレアーナが務める。
四、州馭使については、時機を見て、執政官の判断にて、オンジェラを任官する。
五、州の政務および軍務は、ゾオジが見る。ただし、執政官が規定する重要事項については、執政官が任命する補佐監によく相談して、その同意を得たうえで事を進めることとする。両者の合意が得られず、政務および軍務に遅滞が生じる
六、東部州の領地については、八九二年の状態に戻す。
七、東南州から獲得した領地については、これを東南州に返還する。
八、ウデミーラ・ハオンセクが占領した土地については、これを東部州に返還する。
九、東部州は、ハアティムに対する徴税および徴兵の権利を放棄し、ハオンセク家による自治を認める。
十、賠償金は金の延べ棒五万本とする。毎年二千本づつ払い、二十五年で完済とするが、支払い期間の短縮はこれを認めない。なお、災害などの発生時には、執政官の判断により、支払いを免除もしくは
十一、オアンデルスン一派の残党については、東部州が責任をもって対応する。
十二、東部州の兵数は、ゴレアーナ一派の残党を掃討したのちは、治安の維持に必要な数とする。ただし、軍務を
十三、補佐監の派遣および兵数の制限については、執政官が不要と判断した時点もしくは本年より二十五年が経過した時点で廃する。
十四、上記に記されていない事項については、最大限、東部州の自治に任せる。
各条の詳細については一々触れないが、四条のオンジェラへの言及は、ケイカ・ノテの任官問題とのからみで、
また、九条のハアティムにおけるハオンセク家の自治権の保証については、強固に反対するハエルヌンを、ウベラ・ガスムンとサネが押し切る形でしぶしぶ同意させた。
ウデミーラはハエルヌンに目をつけられていることを自覚して、身を
※4 右肩のけがを理由にサレは断った
以降、サレの直筆の書状は減っていくが、けがのあとに書かれたものには妙味が生まれ、現在、高値で売り買いされている。
自筆が減った理由はもちろんけがもあったろうが、文官として多忙となる中で、代筆を頼む機会が増えたのだろう。
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