花、咲き乱れる丘にて (12)

 敵と斬り結びつつ前へ進んだサレは、もくしゅうれいな若者と一対一で対峙することになった。

 ひときわ目立つ異国風のかっちゅうを身にまとった青年の顔は返り血で真っ赤にそまっていた。

 互いに無言のまま、数度斬りあったところ、若いのに、かなりの技量の持ち主であることがわかった。右肩を負傷していなくとも、油断していれば万が一のありえる相手であった。

 そのために、こいつが私を殺す者かと思ったサレは、相手から少し距離を取り、名を名乗った。

 すると、若者は口角を少し上げて楽し気に言った。

「ノルセン・サレどの。ご高名は父から聞いております。お会いできて光栄です。わたくしは、ゾオジ・ゴレアーナの長子ズヤイリ。東部州でせんちょうを務めております」

「お父上から名前はうかがっております。ずいぶん優秀とか。なるほど、目端の利く者がそちらにいると思ったら、あなたさまでしたか。しかしながら、千騎長同士がいくさ場で斬り合うなど、お互いに末代までの恥ですな」

 そのようにサレが言葉を返したところ、ズヤイリどのは笑みを深めながら首を横に振った。

「あなたさまにとってはそうかもしれませんが、わたくしはちがいます。あなたさまを討ち果たせば、わたくしの名は七州全土に響き渡る……。お命、ちょうだいいたします」

 言い終わると、ズヤイリどのは足元に落ちていたやりを拾い、攻め立てて来た。

 サレは足元のわるい中、ズヤイリどのの素早い槍捌やりさばきに冷や冷やとしながらも、なんとか、ぬるりと彼のふところに入り、ズヤイリどのをきょうがくさせた。

 サレはそのまま、ズヤイリどのを蹴り倒そうとしたが、地面にたまっていた血かなにかのせいでうまくいかなかった。

 ズヤイリどのは後ろに下がりつつ、槍を捨て、武器を刀に持ち替えた。せつりゅうを相手にするのならば、槍より刀の方がよいと判断したのかもしれなかった。それは正しい考えであった。

 数合激しく刃を交えたあと、サレは最後の小刀をズヤイリどのの首筋に向けて投げた。

 しかしながら、矢傷のせいで手元が狂い、小刀はズヤイリどのの美しいほほをかすめただけで、彼の後ろへ飛んで行った。

 ズヤイリどのを殺すことには失敗したが、おそらく自慢であった、その顔を傷つけられて、彼の若さが出た。

 勇んで前に出て来たズヤイリどのをサレはうまく交わして、彼を仰向けに倒すことに成功した。

 それから、ズヤイリどのの息の根を止めるため、サレは刀を構えた。

 すると、ここでもズヤイリどのの若さが出た。みっともなくとも抵抗すればよいのに、目を閉じ、観念したようであった。

 お父上と顔見知りであり、刀術の筋もよい若者を殺すのは、敵といえども忍びないものがあった。

 サレが決してオイルタンをいくさ場には出すまいと念じつつ、刀をズヤイリどののよろいの隙間に刺そうとした瞬間、南西の方から、微かに勝鬨かちどきが聞こえた。

 どうやら、連合軍がいくさに勝ったようであった。

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