花、咲き乱れる丘にて (11)

 異教徒ならば地獄とやらと呼ぶだろうが、サレのようないくさびとにとっては何も感じない風景の中、お互いに矢がつき、投げる手ごろな石もなくなると、両軍は入り混じり、やりかたなを使っての最後のせめぎ合いをはじめた。

 サレは敵を斬って斬って斬りまくったが、いかんせん右肩の調子がわるく、そのようなことはいくさ場では初めてだったが、敵の腕を斬った際、骨に刃が食い込み、抜けなくなった。「骨は触れずに急所をく」がせつりゅうの要諦であったため、サレは非常に恥ずかしい思いにとらわれた。

 結局、サレは長らく使っていた愛刀を諦め(※1)、そこら辺に落ちていた刀で応戦することにした(※2)。


 そうこうしているうちに、またも、虫の息で倒れている古参兵とサレは目があった。

 新参者ならば放っておくが、そういうわけにもいかなかったので、周りに用心しながらサレが耳を近づけると、「苦しい、楽に」と言うので、彼は古参兵の首筋を斬った。 

 血が噴き出る中、左前方から敵が襲って来たので、サレは古参兵の死体を踏んで、その刃を避け、そのまま敵を刺し殺した。


 この頃になると、右肩の痛みのためか、敵のごわさのためかはわからなかったが、サレもずいぶんと弱気になっており、「私はここで死ぬのだろうな」と悟っていた。

 それならば、後を託す長子オイルタンのために、名のある者をひとりくらい討ち取っておかなければとサレは思った。

 そんなことをサレが考えていた時に、その若者は彼の目の前に現れた。



※1 サレは長らく使っていた愛刀を諦め

 「万人殺ばんじんさつ」はいくさ後に回収されたが、ハエルヌン・スラザーラの求めに応じて、戦勝祝いとして、彼の手に渡った。のちに研ぎ直され、近北州において、貴人を斬首する際に用いられるようになった。


※2 そこら辺に落ちていた刀で応戦することにした

 名刀だったらしく、「花丘はなおか」と名づけられ、サレの新しい愛刀となった。

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