花、咲き乱れる丘にて (7)

 へいの東州軍がわずか半刻で東南州軍を蹴散らしつつあるのを知り、兵たちの顔つきは皆一様に厳しいものに変じていたが、士気はわるくないようにサレには見えた。

 中には、行軍から抜け出して、木に両手をつき、胃の中の物を吐き出す者もいた。しかし、そういう者のほうが生き残ることを、サレは経験から知っていた。


 サレは兵に囲まれながら、丘の上を目指した。その間、自分をこのようなめんどうな目に合わせている、東南州の弱兵ぶりについてあれこれと思いを巡らせた。

 近北州軍と比べて、東南州の兵自体にそれほどの見劣りがあるようには思えなかった。兵を率いる将の差はあったろう。しかしながら、やはり、両軍の大きな差は総指揮を執る者にあったのだろう。

 [タリストン・]グブリエラの自業自得による求心力のなさと、近北公[ハエルヌン・スラザーラ]のえたいのしれない、不気味な求心力の存在。この差が、たとえば、両軍に同じ事をさせても、違った結末へ導くのだろう(※1)。


 自らの兵のために、身動きが取れないでいたサレの耳へ、東北の方角から猿が絶叫するような声がしたので、彼はたいへん驚いた。

 それはつまり、先行させたオントニア[オルシャンドラ・ダウロン]の騎兵隊が敵と遭遇そうぐうしたことを意味したからだ。

 慌てず騒がず、丘を占領して、高みの見物を決め込むつもりであったサレのもくろみはそうそうに崩れた。

 サレも抜けていたもので、こちら側にオーグ[・ラーゾ]のように物の見えている者がいれば、相手側にも、はしっこい奴のひとりやふたりはいてもおかしくなかったのだった。



※1 違った結末へ導くのだろう

 変なところで、ハエルヌンとグブリエラの人物評が挟まれている。以降の叙述はサレにとって不名誉な箇所もあるので、読み手の気をそらそうとでもしたか。

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